いつまでも子供なんだから

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いつまでも子供なんだから

1学期が終わる前、生徒たちは最後の大掃除を教師たちから命じられた。 2時間という長い時間を使って、担当の場所を掃除するのだ。 教室、非常階段、廊下、トイレ、ほかにも様々な場所を掃除しなければならない。 蓮と夏澄が掃除をする場所は、集会などのときに使われる多目的ホールである。 箒を持った蓮は、一生懸命床を掃き綺麗にしようと努める。 ホールのステージに座る夏澄は、足を投げ出して掃除をしている蓮を見下ろしていた。 「ちょっと、夏澄ちゃんも掃除してよ」 「綺麗じゃんここ」 「そう見えてもけっこう埃とか溜まってるし。ゴミも落ちてるよ」 「へぇ」 「一緒にやろうよ」 「私がいなくても大丈夫でしょ、最近疲れてるんだよね」 「俺だって疲れてるよ」 「じゃあ一緒に休憩しようよ」 「掃除はどうするの?」 「しなくていいよ」 「そういうわけにはいかないよ、先生も見回りにくるかもしれないし。早くやるよ」 悠々と体を崩して座っている夏澄の手を蓮は握った。 一緒に掃除をしようと誘ったが、彼女の腰は重く全然立ち上がろうとしない。 「いい加減にしてよ」 「もう綺麗だからいいでしょ、そんなに掃除したいなら1人でやりなよ」 「先生に怒られちゃうよ」 「バレやしないよ」 「もう……」 「ちょっと休憩させて」 夏澄は自分の腕を枕にして寝転がった。 腕を使ってステージの上にあがった蓮は、夏澄の頬をつんつんと指で突く。 「今日はやけに絡むね」 「2時間もあるんだよ、ずっとダラダラしてる気?」 「そうだよ」 「ええ……ちゃんと掃除しないと」 「まだ言ってるの?しつこいね」 目を瞑る夏澄はわざとらしく蓮から顔をそらした。 仕方がないので蓮もその場に座り込む。 「先生来たら怒られるよ」 「まだ言ってんの?」 「だって怒られたくないもん」 「そっか」 「どうしてもやらないの?」 「やらない」 「……じゃあ……やらない?」 「は?」 「だから……その」 「猿じゃないんだから、ふふ」 「ダメ?」 甘えたように蓮が頼んでも、夏澄は淡泊に「ダメ」と答えた。 「どうして?」と聞いてみたら、「学校だから」と至極真っ当な答えが返ってくる。 「それにもしここでセックスなんてして先生が来たらどうなるの?」 「怒られるね」 「怒られるだけじゃ済まないよ」 「じゃあどうする?」 「休憩」 「暇だよ、なんか話そう」 「いいよ」 蓮は夏澄との共通の話題を探してみたが、2人の間には性的関係の事柄しか繋がりがない。 頭を悩ませる蓮を見た夏澄は、彼のふとももを撫でた。 「話すことなんかないでしょ、私と」 「そんなこと……ない」 「まっ……昔から私たちあんまり話さなかったもんね。だから別にいいよ、気にしないで」 「うん……それはそうだけど、今は仲良しでしょ?」 「会話も続かないのに?」 蓮は黙り込んだ。 夏澄は細い太ももを揉んで、朗らかに笑った。 「意地悪言ってるんじゃないの。私と蓮くんはそういう関係なんだ。昔から気が合わなかったよね」 「……俺のこと嫌いなの?」 「どうしてそんな話になるの?」 夏澄は微笑んで、体を起こした。 肩を寄せ合って、落ち込む蓮に彼女は優しく語りかける。 「仲が悪いから話さないってこともないでしょ?性格が合わないんだろうね。私と蓮くんは」 「そんな悲しいこと言わないでよ」 「かわいいね」 「え?」 「体だけの繋がりでいいじゃない、私はそれで充分だよ」 「俺は……嫌だな」 「え?」 「夏澄ちゃんは俺に優しくしてくれた。だから仲良くなりたいよ……エッチなことするときだけじゃなくて普通のときでも話したりしたいよ」 「私と仲良くなったってしょうがないよ」 「……なんでそんなこと言うの?」 「蓮くんが思ってるほど、私は優しい人間じゃないよ?」 あくまで自分と距離を取ろうとする夏澄の手を蓮は握った。 澄み切るような視線を彼女にぶつけると、夏澄は不自然に顔を逸らす。 「……何かあったの?」 「別に」 「まだ……いじめられてるの?」 「それは関係ないよ」 「誰にやられてるの?」 口を閉じる夏澄に、蓮は顔を近づける。 忌々しそうな目で、夏澄は彼の瞳を覗き込む。 「……聞きたいの?本当に?」 「うん」 「そう、じゃあ教えてあげる」
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