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「疲れたぁ!」
蓮たち1年生は部活が終わった後、体育館を閉めて職員室に鍵を返して今は帰路についていた。
随分前から治らない筋肉痛の足を動かして、自分たちの家を目指す。
大和はその後も何度も「疲れたぁ!」と連呼している。
「確かに今日は疲れたよ……そろそろ倒れそう」
「うん……はぁ。部活したくないな」
「宗ちゃんはいいじゃん。あんまり怒られないから」
大和の問いに、宗一は顔を歪める。
坊主頭に浮かんできた汗をタオルで拭きとった。
「そんなことないよ、僕も怒られるし……」
「でも叩かれなかった。俺と蓮ちゃんは叩かれたよ」
「たまたまだよ、それに……試合になったら絶対叩かれるし」
宗一の顔が暗くなった。
今男子バレー部には2年生が5人、1年生が3人いる。
バレーの試合に必要な人数は6人だ。
なので1年の中で1番上手な宗一がレギュラーとして試合になると頑張っている。
「今週はないけど、来週は練習試合がある……それに夏休みになったら合宿もあるでしょ?嫌だな……」
「そうだね……宗一くん可哀そうだよ」
「でも宗ちゃんのおかげで俺たちが試合に出なくて済むんだ、感謝してるよ」
「ヤマちゃんそんなこと言うなよ」
何の罪もないような口調で大和が言ったので、蓮は軽く咎めた。
「ごめんごめん」と軽く大和は返す。
「ほんとにやめたいよ……わざと骨折でもしようかな」
「そんなに思いつめてるの?……誰か大人に相談とかしたら?」
「相談しても意味ないよ。親もバレー部で繋がってるし……俺のせいでお母さんたちが……その、意地悪とかされたら嫌だし」
「考えすぎだよ、そんなこと起こらないって」
「そうかな?……それと単純に試合も嫌なんだ」
「叩かれるから?」
「ううん、僕が失敗するとミナトくんとかカイリくんが怒るし……」
「ああ……確かにね」
「俺がガツンと言ってやるよ!」
「言える?」
「あー……どうだろう」
嘯いた大和だが、自信はないようで曖昧な笑みを浮かべた。
その顔を見て、宗一は大きくため息を吐く。
「もっと違う場所に生まれたかったな……レギュラーになれたってここじゃ罰ゲームだよ」
「頑張ろうよ宗一くん、来年になれば2年生もいなくなるし。悩みもなくなるよ」
「2年生っていうか……ミナトくんとカイリくんが嫌いなんだ。あの2人がいなくなればいいのに。ユウマくんとかは好きなんだ、優しいし」
「俺も好きだよ!小さい頃からよく遊んだからね」
「家が近くだったよね?」
「うん、俺たちちょっと離れたところに家あるから」
「俺もユウマくん好きだなぁ……それにタケルくんとショウゴくんも」
「ええ?俺その2人あんまり好きじゃないな」
「どうして?」
「ショウゴくんなんかうざいもん。面白いこと言おうとしても全然面白くないし、絡みも面倒だし」
「確かに……でも僕はそのくらい気にしないよ」
「あとタケルくんは普段は優しいけどめちゃくちゃ気が短いでしょ?俺何回も胸倉掴まれたよ」
「それは大和くんがタケルくんを怒らせるからだよ、この前だって水筒に虫入れてたでしょ?」
「え?そんなことしたの?」
「あはは!ちょっと調子乗ったかなあれは!あの人なんかいじりたくなるんだよねぇ」
「それは怒られるよ、ヤマちゃんも馬鹿だなぁ」
「まっ悪い人じゃないんだけどね、意地悪なんかしないし」
「はぁ……」
宗一はまた大きなため息を吐く。
顔はどことなく小動物のように怯えていた。
「どうしたの?」
「……うん、家に帰ったら西のグラウンドに集合だって」
「なんで?」
「野球するんだって、僕から2人に言っておくよう言われたんだ」
「野球?嫌だなぁ」
「僕も嫌だよ、ミナトくん偉そうだし……ゆっくりしたかったのにな」
「あっ……俺行けないよごめんね」
「……どうして?」
「ちょっと……用事がある」
「用事って?」
「家のことだよ、手伝ってほしいことがあるからって」
「そっか……」
「ほんとにごめんね」
「……いいんだよ、でもまた嫌味言われるな」
そう言って宗一は渇いた笑い声を出した。
この島には人が少ない、1人でも遊び仲間が欠けることを一部の2年がよく思わないことを蓮は知っていた。
「ごめんね、宗一くん」
「いいんだよ、僕から言っておくから。家の用事じゃ仕方ないよね」
その後も他愛ない話をしながら、家までの分かれ道まで3人一緒に歩き続けた。
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