別に蓮くんのことは好きじゃないよ

5/8

5人が本棚に入れています
本棚に追加
/69ページ
「疲れたぁ!」 蓮たち1年生は部活が終わった後、体育館を閉めて職員室に鍵を返して今は帰路についていた。 随分前から治らない筋肉痛の足を動かして、自分たちの家を目指す。 大和はその後も何度も「疲れたぁ!」と連呼している。 「確かに今日は疲れたよ……そろそろ倒れそう」 「うん……はぁ。部活したくないな」 「宗ちゃんはいいじゃん。あんまり怒られないから」 大和の問いに、宗一は顔を歪める。 坊主頭に浮かんできた汗をタオルで拭きとった。 「そんなことないよ、僕も怒られるし……」 「でも叩かれなかった。俺と蓮ちゃんは叩かれたよ」 「たまたまだよ、それに……試合になったら絶対叩かれるし」 宗一の顔が暗くなった。 今男子バレー部には2年生が5人、1年生が3人いる。 バレーの試合に必要な人数は6人だ。 なので1年の中で1番上手な宗一がレギュラーとして試合になると頑張っている。 「今週はないけど、来週は練習試合がある……それに夏休みになったら合宿もあるでしょ?嫌だな……」 「そうだね……宗一くん可哀そうだよ」 「でも宗ちゃんのおかげで俺たちが試合に出なくて済むんだ、感謝してるよ」 「ヤマちゃんそんなこと言うなよ」 何の罪もないような口調で大和が言ったので、蓮は軽く咎めた。 「ごめんごめん」と軽く大和は返す。 「ほんとにやめたいよ……わざと骨折でもしようかな」 「そんなに思いつめてるの?……誰か大人に相談とかしたら?」 「相談しても意味ないよ。親もバレー部で繋がってるし……俺のせいでお母さんたちが……その、意地悪とかされたら嫌だし」 「考えすぎだよ、そんなこと起こらないって」 「そうかな?……それと単純に試合も嫌なんだ」 「叩かれるから?」 「ううん、僕が失敗するとミナトくんとかカイリくんが怒るし……」 「ああ……確かにね」 「俺がガツンと言ってやるよ!」 「言える?」 「あー……どうだろう」 嘯いた大和だが、自信はないようで曖昧な笑みを浮かべた。 その顔を見て、宗一は大きくため息を吐く。 「もっと違う場所に生まれたかったな……レギュラーになれたってここじゃ罰ゲームだよ」 「頑張ろうよ宗一くん、来年になれば2年生もいなくなるし。悩みもなくなるよ」 「2年生っていうか……ミナトくんとカイリくんが嫌いなんだ。あの2人がいなくなればいいのに。ユウマくんとかは好きなんだ、優しいし」 「俺も好きだよ!小さい頃からよく遊んだからね」 「家が近くだったよね?」 「うん、俺たちちょっと離れたところに家あるから」 「俺もユウマくん好きだなぁ……それにタケルくんとショウゴくんも」 「ええ?俺その2人あんまり好きじゃないな」 「どうして?」 「ショウゴくんなんかうざいもん。面白いこと言おうとしても全然面白くないし、絡みも面倒だし」 「確かに……でも僕はそのくらい気にしないよ」 「あとタケルくんは普段は優しいけどめちゃくちゃ気が短いでしょ?俺何回も胸倉掴まれたよ」 「それは大和くんがタケルくんを怒らせるからだよ、この前だって水筒に虫入れてたでしょ?」 「え?そんなことしたの?」 「あはは!ちょっと調子乗ったかなあれは!あの人なんかいじりたくなるんだよねぇ」 「それは怒られるよ、ヤマちゃんも馬鹿だなぁ」 「まっ悪い人じゃないんだけどね、意地悪なんかしないし」 「はぁ……」 宗一はまた大きなため息を吐く。 顔はどことなく小動物のように怯えていた。 「どうしたの?」 「……うん、家に帰ったら西のグラウンドに集合だって」 「なんで?」 「野球するんだって、僕から2人に言っておくよう言われたんだ」 「野球?嫌だなぁ」 「僕も嫌だよ、ミナトくん偉そうだし……ゆっくりしたかったのにな」 「あっ……俺行けないよごめんね」 「……どうして?」 「ちょっと……用事がある」 「用事って?」 「家のことだよ、手伝ってほしいことがあるからって」 「そっか……」 「ほんとにごめんね」 「……いいんだよ、でもまた嫌味言われるな」 そう言って宗一は渇いた笑い声を出した。 この島には人が少ない、1人でも遊び仲間が欠けることを一部の2年がよく思わないことを蓮は知っていた。 「ごめんね、宗一くん」 「いいんだよ、僕から言っておくから。家の用事じゃ仕方ないよね」 その後も他愛ない話をしながら、家までの分かれ道まで3人一緒に歩き続けた。
/69ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加