いつまでも子供なんだから

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炎天下の体育館の中。 男たちの熱気と汗の匂いがその箱の中に充満する。 カイリが真剣な面持ちで、ふわりとあがったトスを渾身の力で振りぬいた。 アタックは相手の肩に直撃し、勢いよく跳ねる。 汗だくの蓮たちは1点を取ったことを喜び、チーム一丸となって喜んだ。 点数は14対16、なかなか拮抗したいい勝負だ。 雄大コーチと監督も顔を険しくし、教え子たちの活躍を見守っている。 ついに始まった1泊2日の他校との合宿だ。 蓮たちとはほかに2チームがこの学校にやってきている。 2チームとも強豪と呼ばれる学校で、相手に不足はない。 ほとんどカイリというスター選手におんぶに抱っこの状態だが、ほかの部員にも意地がある。 少しでも活躍しようと、そしてミスをしてコーチたちに叱られないように頑張った。 補欠である蓮と大和は大きな声を出して、仲間を鼓舞する。 声だけしか出していないのに、彼らの体は汗だくだった。 隣のコートでは女子たちがバレーの練習に励んでいるが、監督の本村は男子たちの熱に感化されたのかいつもより練習を厳しくしているようだ。 男女両方、力の限り自分の出来ることに取り組んでいる。 白熱した接戦の末、蓮たちが勝利した。 「ありがとうございました!」と相手チームに感謝を示した後、コーチのもとに集合する。 コーチは今の試合の悪いところだけを上げて、部員たちを叱責した。 特に動きの悪かった宗一とショウゴを殴って、一旦話は終わる。 次の試合は他校同士の試合なので、蓮たちは主審やラインズマン、点数付けを行うことになった。 楽な点数付けをカイリとミナトが担当し、主審はタケルだ。 副審をユウマが行い、残る四人はラインズマンをする。 蓮はエンドラインの端っこに立って、旗を持って構えた。 審判とはいえ、だらけているとコーチに叱られてしまう。 ホイッスルが鳴り、試合が始まった。 相手チームの選手がサーブを打つ。 それからは粘りのある攻防が始まった。 打っては防がれ、こぼれ球を拾い、アタッカーに想いを託す。 何度もボールはネットの上を往復した。 そして強烈なアタックがラインぎりぎりに叩きつけられる。 蓮と真正面にいる大和は旗を素早く前に伸ばした。 アタックを決めた選手が声をあげて喜ぶ。 「どんまいどんまい」などと、点を取られた選手たちは気持ちを切り替えてサーブカットのため腰を下ろす。 ピリピリとした時間だった。 緊張感と高揚、そして怯え……。 この場にいる誰もが必死だった。 勝つため、怒られないため、早く終わりたいがため。 ポジティブとネガティブな感情が交じり合った選手たちのたまり場……。 自然に蓮の顔もしゃきっとしたものになる。 だが目に入ってしまった。 真っ直ぐな視界の先にいる夏澄の姿を。 夏澄はアタックをミスして、監督に怒られているところだった。 ほかの部員たちも直立して彼女が叱られている場面を凝視している。 以前はなんとも思わなかったが、今は少しだけ見方に変化が出ている。 彼女をいじめている2年の女子、その事実を知ってしまった蓮の目にはまじめぶった顔をしている彼女たちがほくそ笑んでいるように見える。 かつては恋したアカネでさえも……。 夏澄という少女に出会ってから、蓮という少年の精神が徐々に変わっていったのだ。 もっとも、蓮自身そのことに気づくことはないのだが。 ホイッスルが鳴った。 鋭いサーブが宙を舞う。 蓮は公平なジャッジをするために気持ちを引き締めて、ボールの行方を追い続ける。
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