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電気が消され、暗くなった多目的ホールに蓮たちは布団を敷いて寝転がっていた。
他校の生徒たちと一緒に雑魚寝しているのだが、男子中学生が眠れと言われて素直に眠るわけがない。
ほとんど全員が目を開けて、各自会話を繰り広げていた。
「ったく、雄大さんしごきすぎだぜ。俺3回殴られたしよぉ」
「俺は6回だ」
「ってか埃積もってるじゃねぇか。誰だここ掃除したの」
「あ、俺」
蓮は布団をかぶりながら小さく手を挙げた。
ミナトは舌打ちをして、積もった埃を指で掴んで隅に追いやる。
「ちゃんと掃除しろよな」
「ごめん」
「ってか雄大さん今日厳しすぎなかった?合宿とはいえさ」
ショウゴが筋肉痛になった脚を揉みながら言った。
タケルと宗一が同意して頷く。
「大会近いからだろ。ほんとうるせぇよな。おい宗一!お前のせいで俺殴られたんだぞ!何回もぶつかってきやがって」
「ごめん……」
「おい、言い過ぎだぞ」
「本当のことだろうが。下手くそとやりたくねえんだよ俺。早く帰りてぇな」
「明日も朝から試合か……嫌になるな」
ショウゴはぼやき、ミナトがつまらなそうに鼻で笑う。
「おい、そういえばよ。誰か彼女出来たのか?」
「え?」
「モテない連中ばっかり集まってるじゃねぇか。だはは、みじめだな」
お決まりの恋愛トークに持っていこうとするミナトに、みな顔をしかめる。
ミナトはニヤニヤと宗一を見て問いかけた。
「宗一、お前誰が好きなんだ?」
「え?……別に好きな人なんていないよ」
「嘘つくな、言えよ!」
「いないって……」
泣きそうな顔で否定する宗一に、ミナトは苛立ち始めた。
あまりに執拗に聞き出そうとするので、タケルが口を挟む。
「おい、その辺にしとけ」
「なんだよ、つまんねぇやつだな。おい蓮!お前は?」
「俺?」
「好きなやついないのか?」
「いないよ」
「お前もつまんねえやつだな、言えよ。イライラしてきた」
「そんなこと言われても、いないんだもん」
「隠すなよ!夏澄が好きなんだろ?」
「え?」
一瞬にして空気が変わる。
タケルたちも耳を大きくして話にかぶりついた。
誰かの色恋の話というものは、思春期男子の興味をどうしたって引いてしまう。
「今日バーベキューのときイチャイチャしてたじゃねぇか」
「ただ話してただけだよ」
「あんなに楽しそうだったのに?」
意地悪な笑みでミナトは蓮に顔を近づけた。
ブサイクな顔が急に近づいてきたので、思わず蓮は顔を逸らす。
「今目を逸らしたな、雄大さんに言っちゃお」
「やめてよ、夏澄ちゃんにも迷惑がかかるし」
「お、夏澄をかばったな。やっぱり好きなんだろ?」
依然ニヤニヤしているミナトに蓮は嫌悪感を覚えた。
どうしてここまで人に意地悪が出来るのだろうかとも思ってしまう。
「本当に夏澄ちゃんのことはなんとも思ってない」
「いいから好きって言えよ。誰にも言わないからさ」
「だから違うって」
「いいって隠さなくて。馬鹿が、雄大さんに言ってやるからな。お前いじめられるよ」
蓮の苛つきが溜まっていく。
初めて人を殴りたいと思ってしまった。
それほどまでに今のミナトは憎たらしい。
「で?好きなんだろ?いいから言えよ。誰にも言わないって言ってんだから」
このまま否定し続けてもミナトは引かないだろう。
それに夏澄にも迷惑をかけてしまうと考えた蓮は、嘘をつくことにした。
保育園の頃から好きだった彼女の名前を、場の収拾のために使う。
「俺、アカネちゃんのことが好きなんだ」
蓮は言い切った。
タケルたちも動揺する。
「お前、アカネが好きなのか?」
「そうだよ」
「そっか……お前そういう素振り見せなかったから気づかなかったよ」
「そう?」
「へぇ、アカネが好きなのかお前?」
蓮から答えを引き出しても、ミナトはニヤニヤと笑みを浮かべている。
その笑みの意味が分からない蓮は首を傾げた。
「なに?」
「別にぃ、なんでもないよ」
「誰にも言わないでね」
「ああ、もちろんだよ」
ミナトはクスクスと笑って、「トイレ行ってくる」とホールを出て行った。
「ゴミ」
蓮は呟いてしまった。
あどけない男子の黒い一面を見て、タケルたちは動揺した。
「お、おいそんなこと言うなよ」
「事実だもん」
「ま、まあ俺も殺したいと思ったことは何度かあるけどさ。そういうこと言うなよ。一応友達だろ?」
「そうだね、ごめん」
窘めてくれるタケルに謝罪した蓮は、こちらをじっと見つめている宗一に気づいた。
「どうしたの宗一くん」
「本当に……夏澄ちゃんと付き合ってないんだ」
「え?うん、なんで?」
「いや!なんでもないよ!」
その顔はどこか嬉しそうだったが、蓮は深く言及はしない。
「おい蓮、お前アカネのこと好きなんだよな?」
「うん、誰にも言わないでね」
「そりゃ言わねぇけどよぉ……あーなんて言うんだ?あれだな……」
「ショウゴ!」
「あ?ああ、悪い。アカネと付き合えるといいな」
「うん?うん」
なんだか空気がおかしくなっている。
蓮もそのことには気づいたが、眠気が襲ってきた。
「もう寝るね」と言って布団に潜り込む。
小さく「おやすみ」と言って、蓮は眠りの世界に入った。
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