やっと人間らしい顔になった

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やっと人間らしい顔になった

「なんだ今のカットは!?しっかり上にあげろ!!」 「はい!!」 蓮は大声で叫んで返事をした。 夏休み中、大きな大会がある。 それに向けてコーチは気合が入ってるのだ。 蓮は激しいアタックをレシーブしている。 だが上手くいかず、何度もボールを弾いてしまった。 カットを成功させるまでこの練習は続く。 蓮は必死にボールに食らいつき、16回目でレシーブを成功させた。 「次!!」 コーチは叫んだ。 蓮の後ろで待機していたユウマが返事をして前に出る。 その瞬間、コーチの顔色が変わったように思えた。 不機嫌そうな顔をさらに崩し、怒気を表情を孕ませている。 何も言わずにコーチは立ったままボールを打った。 太い腕から放たれる重いアタックがユウマの肩に直撃する。 いつもならミスをすると罵倒するコーチだが、無言で何度も打っていた。 明らかに捉えられないような位置に打ち込んでいく。 当然ユウマはレシーブできず、何度も体にぶつけられ、そして顔にもぶち当たった。 鼻血が出るユウマに構わず、コーチはボールを打ち続ける。 酷い仕打ちだが、蓮たちには何も出来ない。 拷問のような練習に耐えるユウマを見守ることしか出来なかった。 「おい、蓮」 前に並んでいたカイリが話しかけてきた。 「なに?」 「お前アカネのこと好きなんだってな?」 カイリはニヤニヤしていた。 蓮たちの話を聞いていたミナトも蓮のほうを向いてニヤニヤしている。 だが別に蓮はどうでもいいと思ってた。 今はユウマのことが気になっている。 「お前アカネのこと好きなんだろ?」 「さあね」 「隠すなよ。ミナトに聞いた。でもお前も馬鹿だな」 「え?」 意味深な言葉を言って、カイリは前に向き直す。 意味が分からなかったが、蓮は気を取り直して声を出して応援する。 脚がへなへなと崩れ落ちそうになるほど疲弊しているユウマは、レシーブを成功させようと必死にボールに腕を当てる。 だがそう上手くはいかない。 蓮は尊敬する先輩の力になりたくて、ミナトとカイリを除いた部員たちと一緒に彼に声をかけ続けた。 もう何十回目か分からないが、ユウマはやっとボールを上にあげた。 息を乱し、目の焦点もあってない。 コーチはユウマに近づき、頭を殴って頬を3度ビンタした。 強烈な衝撃にユウマは倒れこむ。 「おい、サーブカットしろ」 コーチは体育館を出て煙草を吸い始める。 蓮と大和はユウマに駆け寄って、「大丈夫?」と声をかけた。 「ああ……大丈夫だ」 「ほらさっさとポジションにつけ!サーブカットするぞ!」 「でもミナトくん、ユウマくんが……」 「関係ねぇ、モタモタしてたら俺たちまで怒られるだろうが」 心無いミナトのひと言に、カイリ以外の人間がカッとなった。 タケルがミナトに詰め寄る。 「おい!いい加減にしろ!」 「じゃあお前が雄大さんに言えよ、休憩させてくださいってな」 「お前キャプテンだろうが!」 「だからなんだよ、ほら言いに行けよ。今の雄大さん機嫌悪いからお前も殴られるかもなぁ」 タケルが俯くと、ミナトは満足そうに笑う。 「下手くそだから殴られるんだよ。ほら早くしろよ!ぼさっとすんな!」 蓮はユウマが心配だったが、彼が「大丈夫」と言って立ち上がったのでもう何も言えなかった。 サーブを打つためにあちら側のコートに走り、ボールを持つ。 今だユウマはふらふらと体を揺らしていた。 蓮はユウマを狙わずに、ほかの人に向けてサーブを打った。
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