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ある日、部活が終わって釣りを楽しもうと午後の道を歩いていると、肩を落としてこちらに向かってくる1人の男に気づいた。
蓮はその人物が親友の大和だと理解した後、ゆっくりと距離を詰める。
「どうしたの?ヤマちゃん」
「ああ……蓮ちゃん」
いつも元気溌剌な彼が異様なほど沈んでいるので、蓮は不思議に思った。
「どうしたの?ボウズだった?」
「いや……違うよ」
蓮は大和をよく観察した。
覇気のない声に、涙が溜まっている瞳。
怪我などはしていないようなので蓮は安心したが、どう見ても普通ではない。
「本当にどうしたの……?」
「うん……」
「ちょっと話そうよ、聞かせて」
「うん……」
蓮はだらしなく歩く大和と一緒に、よく使っている釣り場まで向かった。
到着すると、力が抜けたように大和は座り込む。
蓮も同じ目線になって、大和の肩に手を置いた。
「大丈夫……?マジでどうしたの?」
「……バラされた」
「え?」
「モエちゃんに……バラされた」
大和はしくしくと泣きだした。
蓮は呆気にとられたが、動揺してもしょうがないので彼の涙をハンカチで拭く。
「いいよ泣いて。落ち着いたら聞かせて」
ひとしきり泣いた大和は、嗚咽を漏らしながら蓮に向きなおす。
「落ち着いた?」
「うん……」
「そっか。じゃあ聞かせて。バラされたってなに?」
「手紙……」
「手紙?」
「モエちゃんに渡した……手紙」
「なんの手紙?」
「……好きだって書いた手紙」
「ああ……それをバラされたんだね」
蓮の頭にはミナトのムカつく顔が浮かぶ。
憤怒する蓮は力強く言った。
「ミナトくんだね!本当ムカつく!」
「違う……モエちゃんにバラされた」
「え?」
「モエちゃんが……ミナトくんにバラして……みんなにバラされた」
「マジかぁ……」
蓮はなんて言っていいか分からなかった。
恋をした相手に裏切られたのだ、どれだけ心に傷を負ったのか想像できない。
それでも蓮は、大和を元気づけたかった。
「ヤマちゃん、元気だしてよ。俺だって好きな人バラされたんだし。気にすることなんかないよ」
「気にするよ!だって……一生懸命書いた手紙を笑われたんだ」
「え?」
「さっきモエちゃんとかミナトくんとかカイリくんとかが集まってたんだけど……そのときからかわれた……モエちゃんも笑ってた」
「あ、えっと……ヤマちゃん……酷いことされたんだね?でも……逆によかったんじゃないかな?」
「どういうこと?」
「ヤマちゃんが好きだったのは酷い女の子だった。それがわかったんだから……モエちゃんはいい人ではなかった。だからそれで終わりにしようよ」
「そんな……酷いよ」
「そうだね……でもしょうがない。いやヤマちゃんのことを責めてるわけじゃないんだ。でも……もう忘れるしかないと思う。俺に協力できることがあったら何でも言って。俺はヤマちゃんの友達だから」
「うん……ありがとう」
「からかわれても平気な顔してるんだよ、そうじゃないとミナトくんまた調子に乗るから」
「うん知ってる……蓮ちゃんは大丈夫なの?」
「俺は大丈夫、気にしてないよ」
「強いんだね」
「そんなことない」
大和は少し元気を取り戻し、クスクスと笑った。
日が落ちるまで、大和は蓮の釣りを見ながら、いつまでも他愛ない話をし続けた。
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