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「あー!撃たないで!」
悲痛な大和の声も無視して、宗一は彼の操るキャラクターをサブマシンガンで撃ちぬいた。
今蓮たちは宗一の部屋に集まって、1人称視点のシューティングゲームに興じていた。
大和のキャラクターはリスポーンして、また武器集めから再開する。
悲しい出来事を体験した大和だが、男というのは案外単純なものようで大和はある程度元気を取り戻してゲームを楽しんでいる。
「蓮くんはロビーだね、今行くから」
「手加減してよ、俺ナイフしか持ってないんだよ」
「早く銃を拾わないと」
「あっ!銃があった!あれ?なんだこれ……」
「リモコンミサイルは外れ武器だよ、さっさと捨てたら?」
「いや俺はこれで戦う!」
勇ましく宣言した蓮はリモコンミサイルを撃った。
テレビの分割された画面を見て、宗一のキャラの位置を割り出す。
離れた場所から殺害しようとしたが、リモコンミサイルの操作は難しくすぐに壁に当たって爆発してしまった。
「あれ!?」
「だから言ったのに」
「ちょ、ちょっと待ってて!ほかの銃探してくる」
コントローラーを指で操作して慌てて蓮はキャラの方向を変えて、使える武器を探し出した。
動かしていると、画面に大和のキャラを見つけてしまう。
素手の大和のキャラクターは執拗に蓮のキャラクターを殴った。
冷静さを欠いている蓮は上手く対処することができず、無残に殴り殺された。
「ちょっとヤマちゃん!!」
「あはは!体力マックスで素手でやられる人初めて見た」
「あーもう……リモコンミサイルのせいだ」
なんやかんや言いながら3人はゲームを楽しんだ。
いくら厳しい環境に身を置いていたとしても彼らは少年なのである。
騒いで笑って、下らないことを青春の1ページに加える不安定な存在。
3時間もゲームをしていると、流石に疲れてきた。
一旦休憩ということで彼らはコントローラーを手放した。
「その……残念だったね、モエちゃんのこと」
「まあね、でも……まあ蓮ちゃんにも言われたけど、そういう人だと知れてよかったかも」
宗一の心配そうな声に、大和はぎこちない笑みで返す。
完全にはまだ割り切れていないのだろう。
蓮は悲しくなった。
「蓮くんも……残念だったね」
「え?何が?」
「アカネちゃんのことだよ」
「ああ……」
またもやすっかり蓮は忘れていた。
正直言って、もう彼女にはあまり興味を持てていないのだ。
「好きな人バラされたことくらいなんでもないよ。俺は大丈夫」
「でもこの前、2年生の女子が蓮くんの悪口言ってるの聞いたよ」
「そうなんだ」
「あっごめん!余計なこと言って……」
「いいっていいって!宗一くん気にしすぎ!」
「ごめんね……でもよかったじゃないかな?」
「何が?」
「あっごめん!また余計なこと言った……」
「それはいいけど、よかったってどういうこと?」
宗一はバツの悪そうな顔をしていたが、意を決して真実を述べた。
「付き合ってるんだよ、アカネちゃん」
「誰と?」
「ミナトくんと……」
蓮は失望や驚愕より納得した。
ミナトがなぜニヤニヤしていた理由やタケルがショウゴの言葉を遮った理由が分かったからだ。
「蓮くん知らないみたいだから黙ってたけど……」
「そうなんだ、全然知らなかった」
「ごめんね、今まで言えないで」
「いいよいいよ、俺のことを思ってくれたんでしょ?」
穏やかな声で蓮は、落ち込んだ宗一に声をかける。
事実、蓮の心は平静を保っている。
憎きミナトが恋をしていたアカネと付き合っていると聞いても、心が動かなかったのだ。
思春期特有の性の憧れ……。
その憧憬が夏澄と出会うことで解消されたからなのかもしれない。
元来優しい心を持つ蓮だが、彼女との触れ合いでさらに心が広くなり、強度も増していた。
「強いね……蓮くん」
「そうかな?」
「僕だったらたぶん耐えきれないよ……でも僕も……いつまでもこのままではいたくない」
「どういうこと?」
宗一は神妙な顔をして、「誰にも言わないでね」と言った。
親友の真剣な面持ちを目の当たりにした蓮と大和も、表情を引き締める。
「僕……夏澄ちゃんのことが好きなんだ」
蓮はドキリとした。
大和と顔を見合わせる。
そして低い声で「そうなの?」と聞き返す。
「うん……昔からね」
「そ、そっか……そうなんだ」
「僕は蓮くんと付き合ってると思ってた、最近仲良さそうだったし……でも違うんだよね?」
「うん……違うよ」
「だから……僕も挑戦したいと思う。望んだ形じゃないけど2人は好きな人に想いを伝えた。僕も逃げたくないんだ」
「いいじゃん!応援するよ!」
大和は親友の肩を叩いて明るく言った。
宗一は「ありがとう」と微笑み、蓮のほうを見る。
後押しをしてほしいのだろう、だが蓮は容易に言葉を発せなかった。
申し訳ない気持ちでいっぱいなのだ。
今まで考えてもいなかった当然の事柄が頭をよぎる。
彼の想い人を、自分勝手に汚してしまったことを……。
それでもずっと黙っているわけにはいかない。
蓮はなんとか飲み込んだ言葉を吐き出して、かすれた声で言った。
「付き合えるといいね……夏澄ちゃんと」
「うん」
宗一は照れながら返答し、蓮に握手を求めてきた。
蓮はぎこちない笑みを貼り付けて、その手のひらを強く握る。
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