1 浜辺にて

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1 浜辺にて

 お盆を過ぎると、海開きならぬ海閉じだ。  砂浜を灼く太陽は次第に勢いを失くし、海を渡る風は北東からの冷たい色に変わる。  海水浴客たちは「また来年」と海に手を振って、足の指の間に挟まった砂を払い落とし、灰色の曇り空の街へと帰っていく。  小さな海の家を切り盛りしていた西野も、無人の浜辺で店の片づけにとりかかっていた。  店の前には軽トラックが停めてある。それへの積み込み要員だったバイトの男子学生から「すいません、寝坊しました」とだいぶ遅れて連絡が来た。  西野はプラスチックの丸椅子を苛々のぶん積み重ね、よいしょと持ち上げた。バランスを取りながら歩く彼の黒く日焼けした足に、白の看板猫がじゃれついてくる。 「邪魔だよ」  冷たくあしらわれた猫は、仕返しに西野のふくらはぎを軽く噛むと、レジカウンター下の定位置にぴょんと跳ねた。  姿勢よく座って見上げる視線の先には、客寄せ用にとカウンターに置かれた小型の水槽。十数匹のイワシが素早い動きでぐるぐると回っている。  猫のペリドット色の目が、右へ左へとそれを追いかける。
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