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あなたと隔離生活
佐伯未央の平日は朝6時半から始まる。
洗顔、着替え、のち朝食の用意。
9時から在宅勤務を開始するので、それまでに朝食を食べ片付けを済ましておかないといけない。
夫の康二はスーパーマーケット勤務。昨日は遅番で22時帰宅だったので、先にベッドを抜け出して寝かせておいた。
朝食は一緒に食べるのが日課なので、放っておいても8時前には起きてくるだろう。
オーブントースターで鮭が焼き上がった時、未央は自分のスマートフォンが点滅していることに気づいた。
見れば康二からLINEが来ている。
『未央、体温計持ってきてくれる?』
『わかった』
『寝室の外に置いておいて。ノックしてくれたら取りにいく』
ふたりが住んでいるのは35年ペアローンで購入した2LDKのマンション。
寝室とキッチンの間にもそう大した距離があるわけじゃない。
なのに直接話に来ない理由はなんだろう?
なんとなく不穏な予感を覚えつつ、未央は指示どおり体温計を寝室の外に置いてドアをノックする。
キッチンに戻る途中、康二がドアを開け締めする音がした。
焼鮭を皿に盛りつけていると、また康二からLINEが来た。
『38.5℃。ヤバいかも。今日は仕事休んで、電話で予約取れたら発熱外来受診してくる』
『わかった。とりあえず朝ごはん冷蔵庫にしまっておくから欲しい時にLINEして』
『ありがとう。今は食欲ないからスポーツドリンクのペットボトル1本ドアの外に置いてってくれると助かる。発熱外来受診予約とれたらまたLINEするよ』
『了解』
冷蔵庫にストックしておいた500mlのスポーツドリンクを、部屋の外に置いてまたドアをノックする。
焼鮭と納豆と味噌汁と白いご飯。
いつもは康二と向かい合って座るテーブルで、ひとりで食べた朝食はなんだかとても味気なかった。
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