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怖い兄さん
「主任・・一人入ります!」
「誰が入るって? そんなの頼んでないよ⁉」
マンホールの下から返事らしきものがこだまとして帰って来た。
「あんた、本当に地下にしか潜れないけど・・それでも潜ります?」
「今となっては何処でもイイ、殺されるよりはましだ!」
話し終わるが早いか男はマンホールの穴に自分の下半身だけを滑らすと、蓋の傍に置いていたバックと共に地上から消えてしまった。
それから間もなくである。
「ハァッ、ハァッツ、兄貴、何だかここで通行止めですよ」
「ハァッ、ハァッツ、なんだ工事中かよ! お前、話付けろや、車じゃねえんだから人っこ二人ぐらい向こう側へ行かせろ!ってよ」
「オイ、そこのお前! お前だよ!」
チンピラ風の若いのが、警備員に向かって絡み始めた。
『ピ~ッピッピッツ』
「なに、笛なんか吹いてんだよ!・・・少し前に、カバンを抱えた男が走ってこなかったか?」
『ピ~ッピッピッツ』
「だから、笛なんか吹いてる場合じゃねえって言ってんだろ!」
「ラチがあかねえな・・おい、ガードマンさんよ、お前これ以上前には進ませねえんだよな?・・何人なりともだよな!
もちろんこれまでも誰一人通してもいねえよな?」
『ピッピ、ピッピツ、ピ~ッピッピ』
「お前、ふざてんのか⁉ 笛バッカ吹きやがって、殺されるぞ! 兄貴どうしましょ?」
「もうイイ、良いから戻るぞ、誰も通してねえなら向こう側へ行っても仕方ねえだろ⁉」
「兄貴、どうしてそれが分かったんで」
「お前あの笛の音が分んねえのか・・『ピッピ、ピッピツ、ピ~ッピッピ』だろ、あれは誰一人通して居ませんって合図だよ」
「兄貴ってすごいっすよね・・・」
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