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幕間、私はお手洗いのため席を離れた。その帰りがけ、廊下にかかった暖簾をめくってみると、舞台袖でおおわらわに準備をする子供たちがいた。床に無造作に置かれた台本に手を伸ばす。
「部外者は立ち入り禁止だぞ」という声の方を向くと、騎士に扮した坊やがいた。私は「はーい」と軽い返事をして退散する。後ろ手にはちゃっかり台本が。
会場に戻ってみると元いた席は埋まっており、仕方なく最後列で立ち見することにした。
先程こっそりくすねてきた劇の台本を開く。坊やが書き下ろした台本だ。終章のページをめくると、舞台の最終幕が上がった。
~
岩肌むき出しの荒野につむじ風が吹き抜ける。
魔物に憑りつかれたロブロ伯爵登場。
続いて勇者プロノテウス登場。
プロノテウスがロブロを断崖絶壁まで追い詰める。
両者は剣を構えて睨み合った。
プロノテウス「天地が翻ろうとも、お前の悪事を赦すわけには参らん。これまでお前が殺めてきた者たちの怨念をこの剣に宿し、今ここに正義の裁きを与えん」
ロブロ「おのれ、こしゃくなこわっぱが、貴様ごときにヤラれるロブロ様ではないわ」
プロノテウス「天に召喚されたこの心臓、魔力によって逆賊に成り下がった謀反者など恐るに足らん」
両者はゆっくりと間合いを詰めてゆく。
勝敗を決する時がきた。
プロノテウス「やあ!」
ロブロ「おりゃあ!」
両者の剣が交錯する。
一瞬早くプロノテウスの剣がロブロの胸を貫いた。
ロブロは右膝、左膝の順でくずおれる。
プロノテウスは血糊のついた剣を引き抜く。
ロブロ「ばかな……」
仰臥するロブロの身体から悪魔の化身が離脱し天へと昇っていく。プロノテウスはとどめを刺すため剣を高らかに振り上げる。カトレーヌ妃登場。
カトレーヌ妃「プロノテウスよ、そこまでです。見よ、その者の身体から悪魔は消え去った」
プロノテウス「されど、こやつは、あなたの父上を殺めた残忍非道のならず者ですぞ」
カトレーヌ妃「そなたの忠義には感謝いたす。されど、とこしへの泰平のため、憎しみの連鎖はわらわで断ち切らねばならん。その者を開放せよ」
プロノテウス「はっ」
プロノテウスは剣を鞘におさめる。ロブロは滂沱し、平伏した。プロノテウスは右拳を胸にあてる。
プロノテウス「正義は我らに」
~
園児らによる劇の幕が下り、拍手が打ち鳴らされた。拍手を鳴らすのは、おおむね老人たちである。それは形式的なものではなく、心の揺らめきからくる喝采であろう。事実、ハンカチで涙を拭う老人が散見された。
拍手が弱まると、聞き憶えのあるメロディが流れ、劇に出演した園児たちが再び姿を現し一列に並ぶ。
老人たちは誰先ともなく立ち上がり、割れんばかりの賛辞が送られる。スタンディングオーベーションってやつだ。
ここは老人ホーム内の娯楽施設である。私は最後列で、それらの光景を目に焼き付けている。園児は同じ鶴見区に所在を置く《児童養護施設きぼうの里》の子供たち。何を隠そう、私もそこの園児である。劇を演じたのは小学生以下の子供たちで、私は中二だから観客側に回っている。
一列に並ぶ園児たちの中央には、そばかすを顔中に散りばめた坊やがいた。私は彼を誇らしげに眺める。坊やは満面の笑みを浮かべてマイクを握った。
「今日は」勇者プロノテウスこと坊やが発すると、それまでの喧騒が幻のように静まり返る。老人たちは坊やの言葉を聞き逃すまいと耳を傾けた。
「僕たちのつたない劇を最後まで見てくれて本当にありがとうございました」そこで坊やはマイクを床に置き、左右の園児たちに目配せし、せえの。
『おじいちゃん、おばあちゃん、これからも元気で長生きしてください』
こうして《児童養護施設きぼうの里》と《老人ホームあけぼのライフ》の合同学芸会が結ばれた。

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