コント・ステップ

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コント・ステップ

 言葉が走った。急いでペンを動かす。原稿用紙に文字を綴る。台詞が生まれる。この感覚がたまらなく好きだ。  22時過ぎの駅前のさびれた喫茶で、俺は一種の興奮状態にあった。 コント芸人を目指して上京して3年。初めてまともなコントが書けた気がした。  向かいの席に座る、相方の【耳障りヒデオ】が大きなあくびをした。俺は無視して、空から降りてきた言葉たちを書き留める。 「マサト。できた?」  ヒデオがあくびを終えて、こちらの世界に戻ってきたようだ。 「いま、まさにクライマックス!」  俺は、一気にコントを書きあげる。  ヒデオはまたあくびをした。どうやら相当待たせてしまったようだ。 「なあ、俺たち、なんでウケないかな?」 「やばい、傑作ができた」  俺は、ヒデオの言葉を無視して、原稿用紙にエンドマークを打った。そして、ヒデオに出来立ての原稿を渡した。  ヒデオはさっそく原稿に目を落とす。 「相変わらず、字、下手だなー」 「うるせー。いいから読め」  ヒデオは目を2回見開いてから、真剣な表情で原稿を読み始めた。  俺は、ヒデオの反応をみた。じっと見た。じっと。この時間が一番嫌いだ。 「これ、コントか?」 「面白いだろ?」 「なんだかわかんねえけど、面白い」  俺たちは、ハイタッチを交わす。 「これは、面白いから、ミッチャンにも読んでもらおうぜ」 「え……」 「おーい、ミッチャン!」  22時過ぎのこの駅前喫茶店には、俺たち以外にもう客はいない。  店員のミッチャンこと、後藤みちほさんだけが俺たちが帰るのを待っている。  ヒデオに呼ばれて、ミッチャンが俺たちの席にやって来る。 「お会計でしょうか?」 「ミッチャン、これ、マジ面白いから! マサトの自信作」 「え……と……」 「後藤さん、スミマセン」  ヒデオは気軽にミッチャンと呼ぶが、俺は「後藤さん」と呼んでいた。 「なんで謝るんだよ?」  ヒデオは不満そうである。 「だって、迷惑だろ……」  そう言いながらも、俺はミッチャンの顔色を窺う。 「いいですよ。いつも楽しみにしていますから」 「ミッチャン厳しいからねー」 「では、拝見」  ミッチャンはヒデオから原稿を受け取ると、読み始めた。俺はミッチャンの様子を見守る。じっと、見守った。  コントの原稿は次のような内容だ。
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