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あの日から、2年の月日が経った。葉一くんが私を迎えに来た、あの日から。
私が目標にしていた20歳の日は、実家で、ママとおばあちゃんと、平穏に過ごした。日付が変わって誕生日を迎えた瞬間、葉一くんから電話がかかった。
「ありがとう」
おめでとう、じゃなくて?
そう言って私は、茶化して笑ったけど、電話の先で彼は、
「ありがとう、今日も生きててくれて」
もう一度そう伝えてくれた。
本当は20歳になるのが怖かった。大人になれなかった恋人を差し置いて、私が成人するのは許されないと思っていた。
だから葉一くんのその言葉を聞いて、私はまた泣いてしまった。
誕生日が過ぎて、お正月が来て、約束通り一緒に神社に行って、二人で新しい季節を辿った。そして、また誕生日まで生きて、今ではもう22歳が目前に近づいてきている。ほんとに毎日、忙しい。就活に追われ、それに決着がついたかと思えば、卒業論文の執筆。おまけに、世界的に大流行して猛威を振るうウイルスのおかげで、2年前と比べると日常が様々に変わった。
でも、私の隣には、今も変わらず葉一くんがいる。
葉一くんが「一緒に帰ろう」と言ってくれたあの日から、命をもらったあの日から、私の心臓は、ちゃんと動いている。
相変わらず、要領が悪くて色々欠けてて、生きるのが下手だけど。でも、ようやく、「こんなもんで大丈夫だよね」と、許せるようになってきた。
もちろん、亡くなった彼のことは忘れられない。今でも偶に、思い出しては胸が痛くなる。ごめんなさいと、何度も謝ってる。
それでも、傷を負った過去を引き連れて、残りの人生を全うする。彼が生きられなかった明日を、一歩一歩、抱えて歩く。私なりの、覚悟。
我が儘かもしれない。やっぱり私は悪い人で、もう変われないのかもしれない。
だけど、私は今、生きていたいと、やっと思えるようになったんだ。
……いや、本当は。
本当はずっと誰かに気が付いてもらいたかった。
身近な人に心を開くのは怖い。心配かけたくない。失望されたくない。でも否定もされたくない。心配して言ってくれた言葉も、どんなに綺麗で明るい言葉も、脆い心には棘みたいに刺さって抜けなくなる。だから、ブログを書いていた。友達にも、ママにもおばあちゃんにも、ずっと本当の気持ちは隠してたけど、ブログを書いてちょっとでも自分の想いを残したかった。笑っちゃうくらい閲覧数少なかったけど。
私の気持ちを知っても誰も干渉しない、そんな都合のいい場所。だけどそれを葉一くんが見つけてたなんて。「偶然だよ」って彼は言ってたけど、すごく不思議だ。
私を見つけてくれてありがとう。
起こしてしまわないように、小さく囁いた。だけど彼は気付いちゃったみたいで。眠そうに目を開いて、ちょっと伸びをした後、私の背中に腕をまわす。布団の中にこもっていた二人分の体温がふわりと前髪を揺らした。
「葵」
朝、目覚めるたびに、葉一くんは名前を呼ぶ。まるで、私の存在を確認するみたいに、そっと。その優しい声を聞くだけで、本当に胸がいっぱいで。私も、彼の名前を呼んだ。
「葉一くん」
隣であなたが笑っている。
私はあなたと、いつまでこうしていられるんだろう。
この先、何があるかわからない。途中で道が分かれることがあるかもしれない。
だけど。
今までかなり後悔したし、この感情を何度も捨てようと思ったけど。でもやっぱり。
君を好きでよかった。
今は心から、そう、思う。
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