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Ⅱ.地球人と地球人(4/5)
最高の食事と会話を終えた私は、宮岡に確認する。
「持ち帰りのハンバーグ、いつ頃出来そうかな?」
「マスターが仲西さんの食べ具合見ながら準備してたから、もうそろそろ出来上がると思うよ」
「そうなんだ、すごいね、手際が」
「店員二人だけだからさ。効率が命だよ」
そう発した宮岡は、わざとらしく得意気な顔をして親指を立てて見せた。来店した当初より、私達の間の壁は確実に低くなっていることを感じた。
宮岡は、その立てた親指をそのままレジスターに向ける。
「先にお会計しようか?」
「あ、そうだね。クレジットカードでお願いします」
「はい、じゃあここに差し込んで」
……同級生と、普通に店員とお客さんのやり取りをしているだけ。
それなのに、なんだろう。言い表せない幸福感があって、涙が出そうになってくるんだ。自分でも驚いた。
単純に同世代の人とこうやって自然に接したことが嬉しいのかも知れない。最近は本当にそういう機会が無かった。それでも平気だっと思ってたのに。
それなのに久しぶりに感情を揺り動かされて、結局、私は嬉しいと感じているんだ。
「――西さん、仲西さん?」
「あ、ごめん、何?」
「もうクレカ抜いていいよ」
「うん……」
放心していた私は我に返って、言われた通りに引き抜いた。
スマホとコインケースしか入っていない斜めがけのミニバックに、そのクレジットカードをしまい込んだ。一連の行動を通して、帰りの時間が迫ってきている、そんな寂しさも浮かび始めた。
少し話が出来てよかった。それだけでも今朝起きた時点では考えつかないような奇跡だと思う。誰あろう卒アルの落書きの張本人、宮岡とだ。
でも……まだ話し足りない。
奇跡に難癖つける気なんてないんだけれど、純粋に話したいと思った。
そうだ、まだあの『ロスト・アングル』の意味についても確認出来ていないし、むしろ宮岡がどこの高校に通っているかだって知らない。
私はまだ、宮岡のことが知りたいんだ。
「――ユウ! ハンバーグ持ち帰り、あがったぞ!」
「はい! すぐ包みまーす」
ああ、テイクアウトの準備が出来てしまったらしい。
トウコ・イーツとして、仕事をしなくてはならない。出来ればもうちょっと長居したいところなんだけど、その理由も方法も思いつかない。
「仲西さん、ちょっと待ってね。マスターがサービスでポテサラ用意してるらしいから」
「そうなんだ――ありがとうございます!」
「いいよ! お父さんによろしくな!」
程なくして、一式を袋に詰めて宮岡が姿を表した。
「お待たせしました!」
そう言いながら、袋を差し出した。
待ってない、待ってない。何ならもう少し待たせて下さい。
……とも言ってられないか。
私は恐る恐る袋を受け取ると、小さく手を振った。
「……じゃあ、ごちそうさま」
すると宮岡が私の背後に回り込んで、扉を開けてくれた。来たときと同じように、カランカランとベルの音が響いた。
不思議なもので、同じ音だと思えないほど物悲しい音色だ。
「ありがとう、じゃあ」
私は発すると同時に、蒸し暑い店外へと一歩踏み出した。
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