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Ⅲ.ロスト・アングルの真意(2/5)
――宮岡からの連絡は、その日の夜に来た。
こんなにもスマホを肌身離さなかった一日は記憶に無い。実際無い。
ソファーでも、トイレでも、お風呂でも、鳴れば聞こえるところに持ち歩いていた。いつもはスマホばっかり見ている弟に『依存症世代が』とか言っているだけに、少々心苦しさもあった。
夜の8時頃、ついに待望の通知をスマホが告げた。
番号とかLINEとか一通り教えあっていたけど、LINEでメッセージが届いた。私はすぐ既読になったらがっついてるかなとか、そういう駆け引きが出来ない状態にあったので、もう、即開いた。
『宮岡です。今バイト終わったよ。今日は来てくれてありがとう』
私の指は鋭く動いて、すぐに文章が完成した。漫画だったら私の指は千手観音のように描かれることだろう。そんな勢いだ。
『こんな時間までお疲れ様。こちらこそごちそうさま』
そんな感じでやり取りを始めて、他愛のないメッセージが続いた。
やれいつもは昼も混むだの、夜の方が忙しいだの、パパもごちそうさまって言ってたよだの、まずはお店の話題が中心だった。
次第に宮岡が学校の話題を繰り出して、近況についてに変わった。
『仲西さんって、船南だよね?』
宮岡は私の高校を知っていた。私の通う高校は県立船河南高校だ。なぜか音読みで略されて船南と呼ばれている。
漫画のような藍色と青のブレザーに、同系色のチェック柄のスカートが可愛いのも手伝って、女子から人気が高い。学力は平凡なんだけどね。
自慢じゃないけど地元では『美女の船南、美男の船北』と呼ばれるくらいの存在感を放っているのだ。
『知ってたんだ。そうだよ船南。宮岡はどこなの?』
『船南は同中いっぱいいるから。俺は船北だよ』
出た。ほらね『美男の船北』だ。あながち通り名も間違っちゃいないのかも知れない。
『やるじゃん美男の船北。宮岡モテそうだよね』
『そっちこそ美女の船南。俺は全然だ。仲西さんは彼氏いるの?』
宮岡は直球だ。私は遠回しに様子を見ているのに、ズバズバくるな。
でもそっちの方がありがたい。
『私は本当に陰だから。彼氏なんていないよ』
『全然そうは見えないけど。でも良かった。誘ってから気付いたんだ、彼氏いたらどうしようって』
『彼氏なんていたらお一人様してないよー』
『正直、それは思った』
……このやりとり、割愛したほうがいいね?
こんな他人の楽しい探り合い見てても面白くないだろうから。
そんな感じで私達は、近況を伝えあってお互いを知った。
宮岡も同じように補講期間中だったらしく、明日も休みらしい。それもあって私達を止めるものは何もなく、やり取りは深夜に及んだ。
音声通話しちゃえば早いのに、って言うのは無しで。
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