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Ⅲ.ロスト・アングルの真意(5/5)
……今言った通り?
宮岡は確かにそう言った。
今って……何の話してた? 中学1年の時の話しかしてなくない?
むしろ私が調子に乗って自分を見失ったのは、その後の出来事だ。宮岡はその時の私のことを見て、あの言葉を残したんじゃないの?
「言った通りって……意味わかんないんだけど」
「いや、だから天使だって」
「それは恥ずかしいからやめてよ」
「違うんだ、俺は仲西さんと高校が違うから、天使と離れなきゃいけなくて、それで、天使を失ったって意味で……」
「は? ますます意味わかんない」
話が噛み合っていない。心なしか宮岡も私も苛立っている。
それはそうだ、互いに自分の聞きたい言葉が返ってこないんだから。
宮岡がふうと息を吐きながら発する。
「……ロスト・エンジェル」
「え?」
「卒アルの落書きって、ロスト・エンジェル、かっこ笑いのことでしょ?」
……は?
エンジェルなんて書いてあった?
ロストアングルだったよ。何回も見たもん。
確かに『Lost Angle(笑) 宮岡』って。
ん? Angle……Angel……。
……似てるな。
まさか――。
宮岡も何かを感じたらしく、ハッとした表情を浮かべた。
「……俺、なんて書いてた?」
「ロスト・アングル」
「ああ……俺馬鹿だから……間違っちゃったのかな」
「LとEを逆にしてしまった感じ?」
「……うん」
積年の謎が解けた。思ってもなかった方向で。
私に対して自分を見失ったと書きたかったのではなく、私のことを天使で、その天使を高校進学で失ったという、頭の中で思っても恥ずかしくなるようなメッセージを、宮岡は残したつもりだったのだ。
宮岡はすっかり顔を赤くして下を向いてしまった。
「……ああ、馬鹿が横文字なんて書くもんじゃないよな……なんも伝わってないじゃん。いや、伝えてもないんだけどさ……」
自分の頭をポカポカ叩く宮岡の手を、私は咄嗟に掴んだ。
「いや、内容が分かって、スッキリした。それに――」
私は自分でもビックリするくらい、思っていることを口に出せていた。
宮岡の正直さが感染ったのかな。
「――すごく、嬉しい」
宮岡も照れくさそうながら、笑顔に戻ってくれた。私もきっと、すんごい笑ってると思う。
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