Ⅲ.ロスト・アングルの真意(5/5)

1/1
前へ
/22ページ
次へ

Ⅲ.ロスト・アングルの真意(5/5)

 ……今言った通り?  宮岡は確かにそう言った。  今って……何の話してた? 中学1年の時の話しかしてなくない?  むしろ私が調子に乗って自分を見失ったのは、その後の出来事だ。宮岡はその時の私のことを見て、あの言葉を残したんじゃないの? 「言った通りって……意味わかんないんだけど」 「いや、だから天使だって」 「それは恥ずかしいからやめてよ」 「違うんだ、俺は仲西さんと高校が違うから、天使と離れなきゃいけなくて、それで、天使を失ったって意味で……」 「は? ますます意味わかんない」  話が噛み合っていない。心なしか宮岡も私も苛立っている。  それはそうだ、互いに自分の聞きたい言葉が返ってこないんだから。  宮岡がふうと息を吐きながら発する。 「……ロスト・エンジェル」 「え?」 「卒アルの落書きって、ロスト・エンジェル、かっこ笑いのことでしょ?」  ……は?  エンジェルなんて書いてあった?  ロストアングルだったよ。何回も見たもん。  確かに『Lost Angle(笑)  宮岡』って。  ん? Angle(アングル)……Angel(エンジェル)……。  ……似てるな。  まさか――。  宮岡も何かを感じたらしく、ハッとした表情を浮かべた。 「……俺、なんて書いてた?」 「ロスト・アングル」 「ああ……俺馬鹿だから……間違っちゃったのかな」 「LとEを逆にしてしまった感じ?」 「……うん」  積年の謎が解けた。思ってもなかった方向で。  私に対して自分を見失ったと書きたかったのではなく、私のことを天使で、その天使を高校進学で失ったという、頭の中で思っても恥ずかしくなるようなメッセージを、宮岡は残したつもりだったのだ。  宮岡はすっかり顔を赤くして下を向いてしまった。 「……ああ、馬鹿が横文字なんて書くもんじゃないよな……なんも伝わってないじゃん。いや、伝えてもないんだけどさ……」  自分の頭をポカポカ叩く宮岡の手を、私は咄嗟に掴んだ。 「いや、内容が分かって、スッキリした。それに――」  私は自分でもビックリするくらい、思っていることを口に出せていた。  宮岡の正直さが感染ったのかな。 「――すごく、嬉しい」  宮岡も照れくさそうながら、笑顔に戻ってくれた。私もきっと、すんごい笑ってると思う。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加