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Ⅰ.再会(3/5)
暇を持て余した自己分析及び自問自答のお陰で、時計の針は11時を回った。存外私は哲学などに向いているのではなかろうか。
一度は書斎に消えたパパが、時を経て再び扉を開け戻ってくる。
そして悟りを開きかけている私の顔の前に何かを突き出した。
……これ、クレジットカード?
「トウコ、外で昼飯でも食ってこい」
急な提案に私はゴロゴロと悶ながら哀願した。
「えぇ……面倒だよう……何か作ってよう……」
「駄目なんだ、ちょっとトラブってな。こっから数時間WEB会議地獄が確定したところだ」
残念ながら回避不能イベントであるらしい。私は窓外をひと睨みする。
「はあ、嫌だな……お一人様、したくない」
「じゃあ誰かさそ……」
パパよ『誰か誘えば』って言おうとしたんでしょ。でもさっき友達いないって言ったのを思い出して、気を遣って止めたんでしょ。遅いよ止めるのが。
「なあに?」
「いや……別に……あ、そうだ! スコール! スコール行って来いよ。あそこなら駅から離れてるし、平日に若者なんていないぞ。せいぜいランチの奥様連中だ」
「スコール? ああ、あの洋食屋さん。まあ確かにあそこなら……」
「だろ? よしよし行って来い。余裕があればパパの分も何かテイクアウトしてきてくれよ」
「私をトウコ・イーツにするつもりか。てかスコールってこのカード使えるの?」
「この間呑んだ時は使えたぞ。むしろバーコード決済も出来たはずだ」
「やるじゃん個人経営」
「ほれ、そうと決まったら準備準備。やべ、俺も会議の準備!」
その言葉がまだ響いて漂っている最中、パパは凄い勢いで書斎へと駆け込んで行った。在宅勤務って時間の管理大変そうだなと感じる。
……さて、と。
不本意ながら外出することになってしまったから、私も着替えようかな。
暑いし面倒だし。もういいよね、白T&短パンで。髪も雑ポニーで。
私は10分足らずで準備を済ませると、もう既に暑い玄関の扉を開けて、外に一歩踏み出した。
室内から見ていたよりも容赦ない太陽光線が、少し私の目を眩ませた。
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