13人が本棚に入れています
本棚に追加
Ⅱ.地球人と地球人(1/5)
宮岡は、慣れた感じでカウンターの丸椅子を引くと、ゆっくりと腰を下ろした。座っていても私より結構背が高いのが分かる。
「……ふう」
横からの爆イケ圧にあてられ、私は思わず息を漏らす。隣で宮岡が笑う。
「仲西さん……何か、変わったね」
「……よく言われる」
「昔だったらさ、こう、もっとバーって話してそう」
「……ごめんね、地味になったんです」
「いや、地味とかじゃないんだけど――」
どう考えてもモジモジしている私。宮岡も察しただろう。私はもう日陰で生きていく存在になったのだ。あなたの知っている私じゃないんだ。
「――なんか、嬉しいな」
「……は?」
「いや、こうやって、仲西さんと普通に話せることが」
思わず宮岡の方に顔を向けた私は、激しく後悔した。
どう形容していいか、すごく子供みたいな、純真な笑顔がそこにあったから。私は完全にやられてしまった。
「昔はさ、仲西さん、まるで宇宙人みたいな存在で」
「え、なに、宇宙人?」
「そう宇宙人」
「なんでよ」
「すごく目立ってて、俺なんかと同じ星の人って、思えなかった」
お世辞で言っているとか、おべんちゃらとか、そういう感じではなかった。
普通に単純に、心に浮かんだ言葉を口に出しているだけ。そう見えた。
中学時代の人達からは、表でも裏でも色々言われていたから、私はどこか人の言葉を穿って聞きてしまう癖がついていた。
宮岡の表情と言葉は、そんなことを吹き飛ばしてくれるくらい、まっすぐに飛び込んできてすごく気持ちが良かった。
「地球人だよ……私は」
「今は、確かにそんな気がする。だから嬉しいんだって」
「……私には、今、宮岡が宇宙人に見える……」
「ははは、そんな訳ない。俺は何にも成長してない、地球人のまま」
いや、そんなことないって。
今だってこうやって流暢に喋れているじゃないか。そして反則的なまでの爽やかさで、既に私を撃ち抜いてくれてるじゃないか。
あなたは今や、立派な宇宙人だよ。
「そうかな……」
「うん、だからさ、今は地球人と地球人。会話ができるよ」
「そう……それなら、良かった」
私はスコールに来てから、初めて素直に感情を出せた。その結果私の顔が作ったものは笑顔だった。心なしか私の反応を見た宮岡も嬉しそうだった。
……なんて思うのは自惚れ過ぎかな。
厨房ではジュージュー熱そうな音が響いている。
膝の上で固く握った私の手も、同じくらいの温度なんじゃなかろうか。
最初のコメントを投稿しよう!