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Ⅱ.地球人と地球人(2/5)
そのまま少し雑談をしていると、入り口のベルが来客を知らせた。もちろんバイト中のボーイが本来の姿である宮岡は「ごめんね」と発して席を外した。
残念な反面、正直ホッとした自分がいる。
これ以上会話をしてボロが出る前で良かったと思うし、食べている横にいられても困る。多分せっかくのハンバーグも、緊張というスパイスのせいで、何の味も感じない事だろう。
……しかし宮岡に『宇宙人』呼ばわりされるとは。
いや、意外ではないのか。落書きから察するに宮岡は私に対して『自分を見失っている』というような印象を抱いていたと思うし、ある意味で自分と異なる存在、イコール宇宙人というのは率直な印象だったのかも知れない。
それならば今は地球人と評された事は好意的な意味に捉えられる。地に足がついたということだし、私自身、そう感じているのだから。
やっぱり宮岡は、当時の私のことを冷静に評価していたんだろうな。
得意の自問自答をしていると、いつの間にかグラスを持った宮岡が真横に立っていた。
「炭酸、飲める?」
「うん」
「よかった。じゃあこれサービス」
私の前に、気泡を発する緑色の液体が置かれた。大きいサイコロみたいな氷の隙間に挿し込まれたストローが、早く飲んでと言っているように私の顔の方に向いている。
「あ、メロンソーダ好きなんだ。ありがとう」
「どういたしまして。ハンバーグは、もうちょい待ってね」
宮岡は微笑むと小気味よいフットワークで厨房の方に去って行った。私は自分が自然と笑顔になり、普通に言葉を返せていることに気が付いた。
私ってこういうことが出来たんだっけ。なんか不思議だなと思いながら、サービスのメロンソーダを吸い上げて喉に流し込んだ。
――数分後。
氷の1つを吸い続け、穴を開けようと必死になっていた私は、またしても宮岡の接近に気が付かなかった。
「お待たせしました、ハンバーグです」
「あ、ありがとう」
「ライスとスープも付くから……って知ってるか。すぐ持ってくるね」
「うん、ありがとう」
……なんか私、お礼ばっかり言ってる気がする。
一応お客さんなんだから堂々としていてもいいはずなんだけど。実際、気持ち的には宮岡の家にでも来ているみたいだ。
真ん中にハンバーグのプレート、そしてネズミの形でも作るように、両耳の部分にライスとスープがセットされた。
「じゃあ、ごゆっくりどうぞ」
「うん――あっ!」
私はもう一つの仕事を思い出したのだ。トウコ・イーツを。
宮岡は変な声を上げた私を不思議そうに覗き込む。
「どうしたの?」
「あの、ハンバーグって持ち帰ったり出来る? パパに頼まれてて……」
「持ち帰りね、出来るよ。じゃあマスターに伝えておくね」
「ありがとう」
「こちらこそ、毎度ありがとうございます」
宮岡はまた反則的な笑顔を見せて、その場から離れて行った。
……よし。
それではハンバーグを頂くとしようかな。ちょっとした気恥ずかしさとかはあるけれど、それとこれとは別だ。せっかくだしハンバーグに集中しよう。
「いただきます」
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