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「ごめ……、ごめんねっ。僕も、僕も夏希が好きだよっ。僕が好きだと言ったのはあの日僕のことを大好きだって言ってくれた子、夏希のことだったんだ。それなのに僕は夏希があの子だって気づかずに、また好きになってた。でも僕にはあの子しかいないって思っていたから夏希への気持ちを誤魔化した――」  僕のことを好きだから兄さんと番おうとした。  僕のことを好きだからできなくて、  僕のことが好きだから出て行くと言う……。  全部ぜんぶ僕の為、僕のことが好きだから。  ずっとずっと夏希の心は僕への想いで溢れていた――。 「――へ?」  思ってもみなかったのだろう僕からの告白に、夏希は随分と間の抜けた声を出して驚いているようだった。そして、震える声で問う。 「オレが雪夜の好きな人……? ――オレは卑しいΩだよ? あの時はただの(・・・)夏希だったけど、今はΩの(・・)夏希だよ。本気……?」  僕はその答えの代わりに夏希を抱きしめる腕に力を込めた。  他でもないきみがそんなことを言わないで? そんな悲しいことを。  突然のヒートにあてられた僕は夏希を傷つけてしまったと思ったけれど、問題はそこじゃないって気がついたんだ。  悲しい勘違い。あの子(好きな人)と夏希を別の人間だと思ってしまった――。  お互いに想い合っていたのにすれ違ってしまっていただけなんだ。  もう少しで取り返しのつかないことになるところだった――。  どこまで分かっていたのかは知らないけれど、自分たちだけではどうにもならなかった僕たちのこんがらがってしまった糸を解くきっかけをくれた兄さんに感謝だ。本当、『借り』ひとつじゃ足らないくらいだ。  でももう大丈夫。絶対に間違えたりしない。絶対に夏希を離さない。  きみの傷ついた心を癒すように、あの時きみがくれた温かなぬくもりをきみにあげる。沢山たくさん、きみだけにあげる。 「夏希は卑しくなんかないし、たとえ何者であっても夏希は夏希でしょ? 僕は僕、雪夜だよ。雪だるまみたいな外見ではなくなってしまったけど、夏希が大好きだって言ってくれた雪夜だよ。それともこんな好きな子にも気づけない情けない僕ではダメ?」 「そんなわけないっ! どんな雪夜でも好きっ。雪夜だから好きっ!」 「よかった……。もう誰かと幸せになれなんて――言いたくないよ。夏希も嘘でも冗談でも僕以外選ばないで? 僕と幸せになって? 夏希、きみだけが好き。誰よりも愛してるよ」 「――オレ、も、雪夜だけ、愛してる……」  涙声で囁くようなきみの愛の言葉。夢みたいだ。  あの日偶然出会ったきみ。一緒にいた時間なんてほんの一瞬だったけれど、雪だるまのようにまるまるとした僕のことを大好きだと言ってくれたきみ。姿かたちが変わっても僕が僕だと気づいてくれた。本当の僕を見てくれたのはきみだけ。  あの日僕はきみに恋をしたんだよ。  それからいつもいつもきみのことを想っていたよ。  あの日からずっと――きみだけ。  『ごめんね』『大好き』『ありがとう』そんな想いを込めて夏希の額にキスをして、きみはこれ以上ないってくらいの笑顔を僕にくれたんだ。  ――光が、まるで雪が降るみたいにきみの周りにキラキラと輝いて見えた。   あの日きみに恋した雪だるまは姿かたちは変わっても、想いはまるまるふくふくとして。  きみと一緒なら幸せ。 -終わり- ※ふたりのその後を短いですが、スター特典として公開中です。
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