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弱肉強食 〜強食者 兄〜
食卓は戦場だ。
卓上の、個別皿に支度されていないものは、家族で分け合う争奪のお皿である。
個別皿であったとしても、容赦はしない。
俺は年の離れた妹を出し抜き、戦場を生き抜いている。
親父の帰りが遅い晩は、じいちゃん、ばあちゃん、おふくろに、俺と妹の5人の食卓となる。
親父のいない晩が狙いめだ。
果たして今日はどうやって出し抜いてやろうか。食卓に着いた俺の目には『ゆで卵サラダ』が飛び込んできた。
──おふくろのやつ、旨そうに作ったな。
呼ばれた妹も食卓に着くなり、私の大好きなやつだぁと喜んでいる。おふくろはそれを承知で、妹の座る付近にサラダの皿を寄せている。
「いただきます」
基本、食事中テレビはオフだが、親父がいないこともあってテレビがオンだ。
これが狙い目の理由だ。
俺の妹は、大好きなゆで卵を後半に持ち込む癖がある。俺だって、ゆで卵は大好きだ。大好きなものは早めにゲットしなければ、泣きを見る。早め早めの仕掛けが大切だ。
おふくろが倍量の『ゆで卵サラダ』を支度してくれれば、卓上は穏やかになるのだが、決まって同じ量しか作らない。だからもちろんのこと、じいちゃんやばあちゃんにゆで卵は届かない。葉っぱ類だけだ。
卵はSサイズのものしか使わないし、「増やしてよ」と妹が懇願しても、おふくろは「限りがあるのよ」とつっぱねて返す。
作ってもらってる負い目もあるから俺はそれ以上はつっこまない。だからむしろ戦場であるこの卓上を楽しもうとしているのだ。
妹がテレビに夢中になっている。
俺は、猫が盗むよりも大胆にムサムサゆで卵だけを口に放り込んだ。
ん〜旨い。
残りのおかずも堪能し、いよいよラストに差し掛かろうという頃、妹が叫ぶ。
──誰が食べたのー! 泥棒ー!
まるでプンスカだ。よくもまあ飽きずに出し抜かれるものだ。そして俺は盗んではいない。全員が手をだしていい公認の大皿だからな。不可侵の個別皿ではないのだ。
妹は、きゃいきゃい喚きながら怒ってくるけど、俺には楽しそうにしか見えない。じいちゃんやばあちゃん、おふくろも、そんな光景をうるさく思わず微笑んで見ている。
俺は、大好きなものを無防備に取っておくから損をするんだ、と人生の師にでもなったかの気分で、妹を諭した。
そして──。
ずっとプンプン笑っている妹との時間を、俺はすべて盗んでやりたいなどとも思っている。
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