つるんとぷるんとたまご肌 〜母〜

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つるんとぷるんとたまご肌 〜母〜

 キャンペーン期間も残すところ、あと2日!  って言われたら焦るよね、買うよね。  しかも訪問販売だったんだよなぁ。 【つるんとぷるんとたまご肌】  3年前の冬、肌のカサついた日だったわ。  私が1人で留守番していると、彼がやってきた。アポなしでピンポンする彼。当時32歳のカサついた私には、彼がツヤツヤたまご肌に見えて驚いた。  若い男の子と話すのは久しぶりだったし、恥ずかしかったけど、インターホン越しの寒そうな彼を寒空から守ってあげたかった。  なんてきれいな事言ってるけど、嘘。おしゃべりがしたかっただけ。  彼は私に、きれいな方だ……お若い……素敵な方だ……と最近では聞かなくなった言葉を惜しげもなく投げかけてきた。  気を良くした私に「しかし勿体無い」と嘆息まじりに告げてきた理由は──肌のカサつき。  そこまで言うことじゃないんじゃ、と思いつつも、  1本八千円のところ、間に合いました!  なんと1本五千円!  定期購入を契約で1本四千円! 「わぁ、すご〜い、やす〜い」    夢、のような価格と衰えの恐怖から即ハンコ。  その際、彼の手に少し触れてしまったのも思い出の一つ。  そもそも引っ越してから初めての訪問販売だったから、知らない土地で誰かと話したかったのよね。  お義父さんとお義母さんとみんなで暮らすようになって、もう6年か……。良い人だって合う合わないはあるから心配だったけど、まあ、難なく過ごせてるってかんじかな。  思い切って、住み慣れた土地を離れて良かった。土地も新築家屋も、大半のお金をだしてくれたからね。  子供たちものびのびと生活できてるようだし、何より兄妹(きょうだい)2人が仲良くしてくれているのが、私の幸せなのよ。  2人がゴハンのおかずを取り合ってくれる幸せ。私の存在価値があるようで、嬉しくなっちゃう。  だからってゆで卵を少なくしてるわけじゃないのよ。意地悪でもなんでもないのよ。ごめんなさい。  もう、卵をスーパーで買う気になれなくて……。  明日は少し早めに取ってくるからね。田舎っていいわ。  お隣さんちのチャボちゃんには頑張ってもらわないと。
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