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★ 一縷の望み
「お願いします!」
井上悟は一枚の紙を、両手で上司の星野に差し出した。この一枚の紙はいつものそれとは重みが違う。その緊張した悟の様子に、星野はふっと顔を綻ばせた。
「ついにあの日か?」
この支店長を任されている、長身イケメン良くできた上司である星野は、悟に悪戯な笑みを浮かべて、片方の眉を上げる。悟のことを面白がってるかのように。
「はい!」
そんな星野のことをもろともせず、悟は元気な返事をしてみせた。提出したのは有給の申請書。今月の13日のものだ。新車が並ぶガラス張りの、まだお客様もいない店内。そこにいた他の社員達も悟を見て微笑んでいる。みんな知っているんだ。悟の『約束』を。
「玉砕して来い。」
「はい!」
俺はその日に長年の片想いにケリをつける。フラれて来るんだ。
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