1

1/3
17人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ

1

 秋も深まり冬の入口が見えてきた外は、木枯らしが吹いていた。アスファルトの上を、落ち葉が跳ねるように吹き流されていく。 (どこんにあんだよ……)  リビングの和箪笥の引き出しを、俺は片っ端から引き抜き、中のものを床へぶちまけた。どの引き出しも、消ゴムやらボールペンやら、ガラクタばかり。 (洋服箪笥にも何もなかった。それらしい棚は全部見たのに、何一つ金目のものが出てこねぇ)  事業に失敗し、職と、掛け替えのない妻子を失い、もう何も残っていない俺の人生の全てを掛けて、初めて泥棒に入ったのに。それすら失敗するのか、俺は。  二階に行くしかないかと、立ち上がった。  リビングを出ようと、ドアのほうへ身体を向けた俺は、一瞬だけ戦慄が走った。年長さんくらいだろうか、細く茶系の髪を肩まで伸ばした幼女が、前髪の隙間から覗かせたつぶらな瞳で、俺の顔を見上げていた。  青白い肌から腺病質に見えたが、袖なしの黄色いワンピースとの対比でそう見えているだけかもしれない。 (しまった、探すことに夢中で気付かなかった)
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!