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”暖簾に腕押し男”の他人事のような表情に、力なく手元の資料に目を落とす。
書類には裏付け捜査の詳細がびっしりと書き込まれていて、数枚めくったところに被害を受けた女性の写真が計十三枚、それぞれのプロフィールとともに添付してあった。
彼女たちの年齢や職業はバラバラ。写真から感じる雰囲気に統一感や共通点もない。
カモになるなら、誰でもいいのだろうか。
それにしても、この男のどこがいいのか。
コツコツと貯めた全財産を、貢物として差し出してもいいと思えるほどに心奪われる要因が、私には見いだせない。
無機質なスチール机を挟んだ向こう側で、回転イスにふんぞり返って、時々、ボリボリと寝ぐせのついた頭を搔いている粗雑な男。
たぶん、母性本能をくすぐられるとか、そういった類いの心理的要素があるのだろう。
ちらっと曖昧に上げた視線が、毒牙に捕らえられる前に、再び、書類に目を向けた。
内なる刑事の第六感がざわめく理由は、資料にある男の人物像とのギャップだった。
難関大を卒業して、誰もが知る一流企業で数年勤めたあと、投資家に転身。会社員時代の友人は、几帳面で完璧主義な性格だと話す。身なりにも相当こだわりを持っていて、スーツは当時からフルオーダーメイドだったと。
『宇田 雅弘。29歳。職業・投資家』
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