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「ですから、あなたがこの三年の間に女性たちにしてきた行為は、典型的な結婚詐欺にあたると言っているんです。ご自分の罪を認識していますか?」
規則正しく異音をたて続ける小部屋の換気扇が、きっかり二十分に一度、掃除を要求するかのように、ががっ、と存在を誇示して、私のイラつきを増幅させる。
あれが六度目ってことは、もう二時間か。
話が通じない。らちが明かない。
しかも、立件の難しい『結婚詐欺』案件。
そうか。今回の取り調べを任された理由がようやくわかった。課長にしてやられたんだ。あのタヌキ親父め。覚えてろよ。
「女性刑事さん、アンタもわからない人だな。俺じゃないんだって。人違いだから」
「里田です。現にこうして、複数人の被害者のご家族から被害届が提出されて、裏付け証拠も揃っているじゃないですか」
「でも、被害者自身は訴えてないんだろ。ほら、推しに金を積むファンだとか、ホストに貢ぐ上客、政治家を支援する後援団体なんかと同じだよ。気持ちを形にしたってだけでさ。相手だってその代わりに、少なからず”愛情”っていう見返りを手にしてるんだから、罪人扱いだなんて酷すぎやしないか」
「嘘偽りで塗り固めた情報で気を引いて、その気もない結婚をダシに金銭を要求するのは立派な詐欺罪です。宇田雅弘さん」
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