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#89『暗雲、崇拝すべきは幻影』
三月六日。太陽も沈んだ頃、シャッテンは暗い路地で立ち尽くしていた。
「あ〜…あはは。何してるんだろう私。」
力なく膝から崩れ落ちる。
「私…この世界にいる意味なくない?」
〈いや、そんなことはないよ。この世に意味もなく生まれる命なんてあるのかな。〉
「生への執着だけで生きてる人なんて山ほどいる。子孫繁栄とかそんな自然の摂理を認識して生きてる人なんていないでしょ。」
〈生への執着はすなわち子孫繁栄の為でもあるよ?〉
「恋だとかなんだとか言って綺麗な言葉で着飾ってるけど…結局人間も生き物なんだから、獣と一緒だよ。」
〈じゃぁ君も獣になってしまうね?〉
「……当たり前じゃないですか。私は、皆さんを騙そうとした。あの人達の良心に漬け込んだ。私のエゴで。」
〈いくらトリヘックスさん達に『さもなくば、殺す』って言われたからって。〉
「その殺される人は誰だと思ってるんですか。南部校舎の人達ですよ。スルガの人達ですよ。」
〈自分を獣だと卑下した手前、罪悪感はあるんだ…。〉
「自分の恨み言で…他人を危険に巻き込むなんて出来ません。」
「でも君は巻き込んでしまった。どちらにせよ巻き込んでしまう運命。悲しいねぇ。君の犯した罪はきっと大きいものになるだろう。でも大丈夫。朕が助けるよ。」
「何が出来るんですか、貴方に。」
「何が?全て“奪い去れる”。君の力をもってして解決してあげようじゃないか。朕は嘘つかないよ。」
いつの間にかやってきていたマルクは笑顔でそう言った。
「…本当に助けてくれるんですか。」
「やってみないと分からないことも─。」
「どっちなんですか。」
「あらら。何かまずいことしちゃったかなっ。あっははは。」
マルクがシャッテンに手を伸ばそうとしたその瞬間─。
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