#89『暗雲、崇拝すべきは幻影』

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どこに向かっているのかも分からず、シャッテンはファーデンに着いていく。そんな彼女の脳裏ではマルクの言葉が主張をしていた。 何度も手を貸す、救おうと言われたが、どうして私は伸ばされた手を握ろうとしなかったんだろう。シャッテンはそう考えていた。手を握らない理由がない。猫の手も借りたい。救われたい。いくら自分よりも辛い思いをしている人が、この世に数えきれないほど多くいるとしても─。 『辛いなら、辛いでいいんだよ?そこに優劣はないんだよ?』 ─マノさんはそう言った。今自分が辛いのかすら私は分からない。空っぽなんだ。─ 『自分のことを一番理解しているのは自分じゃない。むしろ他人だったりするもんだよ。』 ─シェイネさん。今の私はどんな人間ですか。─ 『レーラちゃんは、大事な友達なの!』 シャッテンが歩みを止める。 「どうしたの?急に立ち止ま──あぁ、ダメだよダメダメ。君は─空っぽでなくちゃ。」 「…は?」 「最近…理想のテディベアが作れないんだ。強い人は苦しんで、苦悶の表情を浮かべるのが最高だね。君のような人は…空虚で、影があった方が愛らしい。」 ファーデンの柔い雰囲気は今や消え失せていた。
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