#89『暗雲、崇拝すべきは幻影』

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「どうして光が戻るの?ねぇ、どうして。」 「どうして?そんなの、彼女自身の願いと強さがあるからじゃないか。」 「…あ?」 「あっははは、怖い顔をするなよ〜。朕は、そういう奴が一番嫌いだ。異端だと言っているんだよ。迷える子羊は…朕が救う。所詮操り人形でしかない男が、救済を騙るな。救済はエゴじゃないんだよ。」 「出ていけよそ者。お前みたいな奴は、跡形もなく誰からも悼まれず死ねばいい。」 「よそ者ぉ?朕は君達のお頭さんに頼まれているんだよ。よそ者扱いなんて甚だ可笑しい。」 「マ、マルクさんがどうしてここに…。」 シャッテンのその一言で二人は黙ってしまった。マルクはニコリと目を僅かに細めて微笑む。 シャッテンは今になって気付いたのだ。 ─この場に救いはないと。 最善の手段、行動など何も分からなかった。 「君は救われるべき人間なんだ。トリヘックスなんて悪の権化でしかない。世間は新興宗教なんて…とか言うけどね…別にカルトじゃないんだから。」 「手を組んでるなら貴方達だってまずいじゃないですか。」 「まずいぃ?いやいや、朕達は利害の一致なだけだからね。別に協力関係ではないんだよ。いや…協力?まぁどっちでもいっか。」 マルクはニコリと笑った。その笑みがシャッテンの恐怖を引き立てる。 「この世は愛に溢れてなきゃいけない。誰もが自分を認められる世界であれ。自己肯定感は高く持ってなんぼだ。“自分を愛せないなら…誰かを愛せるはずがないじゃないか”。」 「あ──。」 シャッテンはマルクの最後の一言で限界を迎えた。今まで耐えに耐え忍んだ何かがプツリと音を立てて切れた。 そんな彼女の様子がおかしいということに気付いたマルクは、蹲ってしまったシャッテンに語りかける。 「朕が救おう。君は自分だけが可愛くていいんだよ。」
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