#89『暗雲、崇拝すべきは幻影』

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「……まずいわ。」 アーテルはボソリと呟いた。一連の流れを陰から覗き見ていたのだ。 「アレが?」 その横で闇夜に紛れて気配すら感じさせないラズルが呟いた。 「…一般人を巻き込んだことへの怒り?」 「そんな綺麗な事でキレるように見えるかしら…。」 「……私から見れば、十分綺麗な人だと思うけど。」 アーテルがラズルの顔を見て「正気?」と尋ねるように片眉を上げる。 「何にキレてるの。」 「…あの子のことを分かっておきながら弱みに漬け込むことよ。あの子にバイオテロの最後の…決定打を打たせるつもりよ?」 「あぁ─。でもどうするの?あの子、救えないでしょ、私達には。やった後に正気に戻っても─。」 「罪悪感に押しつぶされるオチね。」 「尚更助けられない。」 「でもバイオテロを起こさせたら──スルガが。」 ラズルがハッとしたように目を見開く。ボソリと双子の片割れの名を呟く。 「ラズル?ラズ─。」 「チュト、死なない?」 「…わ、から、ない。」 「ウイルスに関わってないの?」 「関わらせなかったのよ、トッパンが。」 「ざまぁないねぇ。キャハハッ。」 二人よりもトーンの高い声が響く。二人が振り返ると、いつの間にかそこには─。
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