Girls on the stage

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  ***** 「綾!」  店内に入ってくると、綾を見つけた萌は小走りで駆け寄ってきた。 「大丈夫? 泣いて電話くれるんだから、ほんとびっくりしたよぉ」  いつもよりやや早口で言うと、萌はすとんと向かいの椅子に腰掛けた。 「うん……、ごめんね萌、呼び出したりして」  喉がからからに渇いたような感触に襲われる。言葉がつっかえたようになって、うまく声が出なかった。 「そんなの全然いいけどさぁ――、どうしたの急に。こないだは告るつもりはないって言ってたのに」  テーブルに身を乗り出してさも心配そうにこちらを見つめる萌の顔を、綾はじっと見つめた。  桧山萌。彼女は出会ったその日から綾の目を引いた。彼女はとても綺麗な顔をしている。ゆで卵みたいな肌はつるんと美しく、大きな黒い瞳は、時々どきりとするくらいまっすぐにこちらを捉える。小柄で化粧っ気はまるでなく、染めたことなどなさそうな黒髪もサッパリと短く切っていて、パッと見た感じ、女の子らしい要素を徹底的に排除しているようにも見える。それでも、どうしても目が行ってしまうのだ。  いつも大人みたいな眼差しで、こちらの言葉をじっと待っている。相手の言葉をよく聞いてそれにふさわしい答えを返し、他人の気分を損ねることがない。だけど時々どこか気だるそうに、自分の居場所はこんなところじゃないって言わんばかりに、退屈そうな目を窓の外に向けている。そういう彼女を見た時、綾の心は不安でいっぱいになる。そしてそのあとにかすかな腹立たしさがやってくる。彼女の目に、私は決して映らない。だから私は、自分からこうやって無理にでも彼女の視界に入っていくしかないのだ。  目の前にある萌の瞳は今、しっかりとこちらに向けられていた。嬉しくて思わず頬が熱くなる。気持ちを抑えるため、綾はテーブルに目を落とした。
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