Girls on the stage

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「どうして、なのかなぁ……」  同情を引くようなか細い声に、自分でちょっとぞっとした。演技の中に気持ちが入っていながらも、そんな自分を嫌悪する気持ちと、萌の興味を独占している嬉しさがないまぜになって、胸が苦しくなった。そうしようと思ったわけではないのに、目に涙が浮かんでくる。 「振られちゃったら、もう、好きでいちゃだめなのかなぁ」 「なんで? そんなことないって!」  涙が一粒、テーブルの上に落ちた。 「ちょっ……、ね、泣かないで、綾」  慌てた萌は手を伸ばすと、テーブルに置かれた綾の右手を励ますようにぎゅっと握った。 「好きでいちゃだめだとか、そんなこと絶対ないから。ほら、人の気持ちってそんなにすぐには変えられないものじゃない? それに、本当にダメだったの? 彼女がいるとか言われちゃったわけ?」 「……あの人ね、私のこと、忘れてて……、それで、急にそんなこと言われてもなぁ、って顔されて……困らせてしまって。迷惑そうだった。それでそれ以上何も言えなくて、すみません、って謝って逃げてきちゃったの」  え、と言うと、萌は拍子抜けしたように肩の力を抜いた。 「そうなんだ? それって、単に突然のことにびっくりしちゃっただけで、振られたってわけではないんじゃない?」 「ううん。私のこと、忘れてたんだから。こっちはずっと覚えていたのに。……忘れるって、私は振られるより辛いことだと思うの」 「でも、嫌われているわけではないんだし、これからのことはどうにでも変えられるってことだしさぁ――」 「だけど、萌。前に言ったよね?」  綾は萌の言葉を遮ると、顔を上げ、涙に濡れた目でその顔をまっすぐに見つめた。 「『必要の無い愛情ほど、邪魔なものはない』って」  突然思いもよらない言葉を浴びせられて戸惑ったのだろう、萌は一瞬、わけがわからないというような顔で、綾をぽかんと見つめた。 「――え?」  それから、首を傾げる。 「……そうだっけ? 私、そんなこと言ったっけ?」  言ったじゃないの、と思った。そう、あれは教室で数人のクラスメイトと一緒に、とあるテレビドラマの話をしている時のことだ。当時放送されていた、イケメンと美女たちがぞろぞろ出てきてすったもんだの恋愛劇を繰り広げる、よくありがちな学園ドラマの話題。その作品の中で、その気がまったくない主人公を執拗に慕い続ける当て馬役の男の子がいた。その役柄が可愛いか鬱陶しいかという話題で意見が分かれ、みんなが盛り上がっている時だった。それまで脇で黙って話を聞いているだけだった萌が突然、ちょっと苦々しいような表情を浮かべ、例の言葉を言い放ったのだった。あんまり突然にそんな発言をしたせいで、その場にいた誰もが驚いて、一斉に彼女に目を向けた。 「萌、どした? 何か怒ってる?」  そう訊ねられ、一瞬しまった、という顔をした萌は「ううん、そういうわけじゃないけどさぁ、キライなんだ、しつこいのって」と言うと、あとは適当に話を合わせていたのを思い出す。  確かに、普通なら思い出すこともないような、他愛もないやり取りだったかもしれない。だけど――あの言葉。あの冷たい響き。綾は自分が真っ向から否定された気がした。あれからずっと、あの言葉が心から離れなかった。忘れることができなかった。
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