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「心配するな、イスラは死なせない。無事にお前の元に帰す」
そう言って魔力の高い精鋭達にイスラの援護を命令してくれました。
数多くの魔族や精霊族がイスラとともに戦おうと部屋を出て行く。人間の王である勇者とともに、多くの魔族と精霊族が協力関係となったのです。
一人で戦いに行ったわけではないイスラに安堵し、そして。
「ブレイラっ!」
「ぅ……、ハウスト」
気が抜けたと同時に体が崩れ落ちました。
咄嗟にハウストに抱きとめられましたが自分の足で立てません。
全身が脱力したように力が入らない。いいえ違います。力が入らないんじゃなくて急速に生命力が抜けているんです。
そう、私の全部をあげるという言葉は文字通り全部。
神の器の私は、器なので力を行使することはできませんでした。でも器なので移すことはできるんじゃないかと思ったんです。そうしたら予想通りイスラに移すことができて、本当に良かった。
一度器を傾けて注いだなら、それは空っぽになるまで注がれます。
お陰でイスラに全部あげることができました。力も、体も、心も、命も、私の全部を移し、与えました。
これで少しは親らしいことが出来たでしょうか。
イスラに全部与えることができて親として満足しています。でも一つだけ。
「ハウスト、ごめんなさい……っ。わたし、もう、しんで……しまいそうで……っ」
イスラには決して聞かせたくない弱音を吐きました。
体から凄まじい勢いで力が抜けていくんです。まるで生命力が地面に吸い取られているみたいです。このまま干からびてしわしわになってしまうんでしょうか。そうやって死ぬんでしょうか。
私は後悔していませんが、戦いから帰ってきたイスラに私の訃報を聞かせてしまうことだけが心残りです。きっと悲しませてしまいます。
そしてハウストにもとても悪いことをしています。身勝手すぎると怒られても仕方ないことです。
「ハウスト、ほんとうに、ごめんな……さい」
「謝るな。お前が結構面倒な性格をしていることは、初めて怒らせた時から分かっていた」
「こんなときに、ひどいですね……」
「お前ほどじゃない」
ハウストはそう言って微かに笑いました。
怒っているような、困っているような、泣きそうな、そんな複雑な笑みです。
そんな顔、ハウストには似合いませんね。
少しでも慰めたくて、触れたくて、ハウストに向かってなんとか手を伸ばす。
その手を取られ、そっと握り締められました。
「お前は酷い奴だ」
「はい、ごめんなさい……」
「俺に何も言わず、イスラに全部あげてしまった。俺には何一つ残さない」
返す言葉もありません。
それでハウストを愛していると言って口付けを乞うたのですから、とんだ嘘つきだと思われたでしょう。
もうすぐお別れだというのに嫌われてしまったでしょうか。自業自得とはいえ少しだけ悲しいです。
困ったように、でも目に焼き付けるようにハウストを見つめる。
きっともうすぐ瞼を開けていることすら出来なくなります。
身勝手は承知の上で、愛していると最後に伝えようとした、その時でした。
「お前がお前のすべてをイスラにあげたように、俺は俺のすべてをお前にやろう」
「え? っ、これは……っ」
握られている手から洪水のように力が流れ込んできました。
それは乾いた砂漠を潤そうとする猛烈な力の激流。
からからに干からびようとしていた私の体にハウストの生命力が流れ込んでくる。
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