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夜。
山小屋にランプの明かりが灯る。
食卓のテーブルには二人分の薄いじゃが芋スープと硬いパン。パンの味付けに森の果実を磨り潰した添え物を用意しました。
イスラが寝ているうちに私とハウストは先に食事をしてしまうことにしたのです。
しかし食事といっても恥ずかしくなるくらい質素で粗末なものしか用意できません。
「す、すみません……。こんな物しか用意できなくて……」
あまりにも恥ずかしくてハウストの顔を見れません。
でも、これは私にとって普段の食事です。
薬を作って売るだけの薬師の収入では、一人で生きていくだけで精一杯でした。
一人で暮らしている時は粗末な食事でも平気でしたが、ハウストとの食事でこんな物しか用意できないことが恥ずかしい。
思えば、これから一緒に暮らす山小屋も大人二人が生活するには狭すぎるし、魔王の彼からすればここは廃屋同然に見えているでしょう。
たった一間しかない小さな土間付きの生活空間には必要最低限のものしかありません。一人で暮らしていた時は雨風が凌げる屋根と壁さえあればいいと思っていました。それは富を諦めていた訳ではなく、本当にそういったものに興味がなかったんです。一人なので誰の目も気にしませんでした。
でも、ハウストと暮らすことになって、こんな廃屋同然の場所に住まわせてしまって嫌われるんじゃないかと不安になってしまう。
「……お口に合わなければ気にせず残してください。明日はもう少しちゃんとした物を用意しますから」
「これで充分だ、気にしないでくれ」
「でも……」
「ここには俺とイスラが押しかけたようなものだ。それに」
ハウストはそこで言葉を切ると、薄いスープを一口飲んで優しく目を細める。
「とても美味しいスープだ。ブレイラは料理が得意なんだな」
「……う、うそです。だって香辛料とか使ってないので、ほとんど味なんかしないはずです」
香辛料は贅沢品で私のような貧困層には手の届かないものです。
せめてもの思いで味付けには薬草を代用していますが、それでも香辛料の美味しさには遠く及びません。
「そんなことはない。香辛料はなくても、薬師のお前が使えば薬草も十分な働きをするものだ」
「ハウスト、あなたはとても優しいんですね……。ありがとうございます」
くすぐったい気持ちがこみあげました。
ぴちゃぴちゃの薄いスープが美味しいわけないのに、それでも私の小さな工夫に気付いてくれる。
気恥ずかしさにハウストの顔が見れなくて俯いてしまいましたが、今夜の食事は今まで食べた中で一番美味しいと思いました。
いつもと変わらない薄い味付けなのに、おかしなものですね。ハウストがいるというだけで料理の味も変わってしまう。単純な自分がなんだかおかしいです。
二人で他愛ない話をしながら硬いパンを食べ、薄いスープを飲む。
質素な食事はあっという間に終わってしまいました。
「薬草を煎じたものですが、お茶を淹れましょうか?」
「ああ、頼む」
食後のお茶を用意していると、ベッドで眠っていたイスラが目を覚ます。
ぱちりと目覚めたイスラは私を見つめると手足をばたつかせて何かをアピールする。
「あー、あー」
「お腹が空いたんですね、ちょっと待っててください」
手早くハウストのお茶を用意しながらイスラの為にミルクを温めます。
温めたミルクを小さな器に移し、ベッドで待っていたイスラを抱きあげました。
「お待たせしました。これならあなたにも飲めると思います」
一般の赤ん坊が飲む母乳は用意できないので、代用に動物のミルクです。
小さな口に器の淵をあてて傾けると、こくこくと美味しそうに飲み始めました。
「あなたはミルクを飲むのが上手ですね。手がかからなくて助かります」
「ちゅちゅっ」
「ゆっくり飲みなさい」
話しかける私に、イスラもミルクを飲みながら嬉しそうに目を細める。
そんな私たちをハウストが興味深げに見ていました。
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