第二章・たとえあなたが魔王でも、 勇者をあなたの望む子どもに育てましょう。

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「手馴れているな。赤ん坊を育てたことがあるのか?」 「いいえ、初めてですよ。暇潰しに育児書を読んだことがあるだけです」  趣味が読書で良かったと改めて思います。  子どもの時はとにかく本を読むのが好きで、どんな分野も好奇心のままに読んでいました。その中にあった育児書の知識が今になって役立っています。 「そうか、ならば俺にもやり方を教えてほしい。お前を頼ってしまっているが、負担ばかりかけるつもりはない」 「いいんですか?」 「もちろんだ。手伝わせてくれ」 「ありがとうございます。では、このミルクを飲ませてやってください。私は食事の片付けをしますので」 「分かった」  ハウストにイスラとミルクを手渡します。  少し心配でしたが、ハウストは丁寧な動作でイスラにミルクを飲ませ始めました。 「あなたこそ上手じゃないですか」 「お前の真似をしているだけだ。また教えてくれ」 「ふふ、もちろんです」  私は笑みを浮かべて頷くと、土間で食事の片付けを始めます。  後ろから「ゴクゴクゴク」と勢いよくミルクを飲む音がする。イスラは順調にミルクを飲んでくれているようです。 「ゴクゴクゴクゴッ……! ゴボゴボゴボ…………」  え、ゴボゴボ? なんの音かと振り返ってギョッとする。 「ハ、ハウスト! イスラが溺れています!」  慌ててイスラを抱き取りました。 「ゴホゴホッ、うぅ、う、びええええええええん!!」 「な、泣かないでくださいっ。ほら、もう苦しくないですよ? もう大丈夫ですから」  あやしながら背中をぽんぽん叩く。  ミルクまみれの顔を拭いてイスラを危機から救うと、ハウストをキッと睨む。 「ミルクを一気飲みさせるなんてどういうつもりですか! 溺れてたじゃないですか!」 「す、すまない。勢いよく飲んでいたからもっと飲みたいんだと」 「まだ赤ちゃんなんですから無理に決まってるじゃないですか!」 「そうだな、すまなかった……」  ハウストが消沈して肩を落とす。  私は呆れてため息をついてしまいましたが、彼のこんな姿を見るのは初めてで、少しだけ可笑しくなりました。  だって、私が知っているハウストはいつも悠然としていて、大人びて優しいけれどとてもミステリアスです。でもこうして彼について新しい発見ができて嬉しい。 「もういいですよ、もう怒ってません。今度から気を付けてくださいね」 「ああ、今度はちゃんとする」 「はい、お願いします」  そう言って私が笑いかけると、彼も嬉しそうな笑顔になりました。
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