第三章・あなたが教えてくれました。 私の目に映る世界は色鮮やかで美しいと。

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「つよくなったら、ブレイラをまもれるのか?」 「えっ、私ですか?」  私は思わず苦笑してしまいました。 「そうですね、あなたは勇者ですし、私もあなたが守るべき人間の一人ともいえますね。でも、せっかく強くなるならハウストの為にお願いします」 「なぜだ? ハウストはつよい」 「そうですが、ハウストもあなたが強くなることを望んでいるからです」  イスラは納得いかないような顔で唇を尖らせる。  なにか言いたげなそれに私は小さく笑いかけます。 「そんな顔しないでください。ただでさえ無愛想なのに、もっと無愛想になるつもりですか」 「む……」 「さあ、早く鍛錬に戻りなさい。きっとハウストが待ってますよ?」  そう言って私がイスラを促がす。  しかしイスラは一歩も動かないまま困ったように視線を彷徨わせだしました。 「どうしました?」 「……ハウスト、おこってるかもしれない」  イスラはぽつりと言いました。  その言葉に思わず顔が綻ぶ。  さっきはハウストを倒すことを目標にしていたのに、そのハウストに怒られるのが恐いようです。 「分かりました、では一緒に行きましょう。私も一緒に謝ってあげますから」 「うん!」  私が差し出した手をイスラが握り締める。  二人で手を繋いでハウストのところへ歩きだす。 「ブレイラ、だっこ」 「なに甘えてるんですか」 「だっこ」 「……仕方ないですね、ちょっとだけですよ?」  頑ななイスラに私の方が根負けです。  抱きあげると、ぎゅっとしがみ付いてきました。 「ブレイラ」  耳元に響く子どもの高い声。甘えを含んだそれに自然と頬が緩みます。  まだまだ言葉使いは幼いですが、舌足らずなところは直ってきましたね。  以前は「ぶえいあ」と呼んでいたのに、今では「ブレイラ」としっかり呼んでくれます。  それが嬉しくもあり、少しだけ寂しくもあるような気がして不思議です。  私は自分の親を知りませんが、今、少しだけ親の気持ちというのが分かるような気がしました。 「イスラ、見てください。綺麗な花が咲いてますよ」  木陰に花が咲いていました。  木漏れ日から差し込む柔らかな光を受けて美しい花弁が開いている。  花を見ながら、まるで世界が変わったようだと気付く。  今まで花を見ても美しいと思うことはあまりありませんでした。薬師として薬草の材料でしかなかったのです。  でも今、色鮮やかな花を見て美しいと素直に思えました。 「あか、しろ、きいろ、きれいだ」 「そうですね、綺麗ですね。後で家の前に植え替えましょう。家の周りに花壇を造ろうと思うんです」 「かだん?」 「そうですよ、とても綺麗なんです。楽しみにしててくださいね」  いまいち花壇というものが分かっていないようですが、私は完成した花壇を思い描いてワクワクしてくる。  きっとイスラもハウストも喜んでくれるはずです。
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