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驚くべきことに甘い期待は直ぐに叶いました。
生まれたばかりの赤ん坊をつれて自宅の山小屋に帰ると、そこにハウストがいたのです。
「ハウスト……っ」
その姿に大きく目を見開く。
十年振りに再会した彼は、初めて出会った時と変わらない姿でした。
いえ、初めて出会った時とは違って貴族のような格好をしている。やはりどこか高貴な身分の方だったのでしょう。
ずっと会いたいと思っていた相手にこんなにあっさり会えるなんて、まるで夢のようで胸が一杯になる。
そんな私にハウストが優しく笑いかけてくれます。
「久しぶりだな、ブレイラ。覚えていてくれて嬉しいぞ」
「わ、忘れるはずがありません! あなたも、覚えていてくださったんですねっ」
「当たり前だ、あの嵐の夜を忘れるはずがない」
「ハウスト……」
ハウストの言葉にじわりと涙が浮かぶ。
私がずっと彼を忘れられなかったように、彼も私を覚えていてくれた。
それが嬉しくて、胸が温かなもので満たされていく。こんな感覚はハウストと初めて出会った子どもの時以来です。
「あなたから渡された卵から勇者が生まれました。本当に赤ちゃんが生まれてくるなんて驚きましたよ」
「ああ、まさか誕生させるとは……。お前は本当に素晴らしいな」
「ありがとうございます」
ハウストに褒められてくすぐったい気持ちになる。
やはり勇者の卵がハウストと私を繋げていた。今まで大事にしてきて本当に良かったです。
「勇者を抱かせてくれ」
「はい、どうぞ」
抱いていた赤ん坊を渡すと、ハウストは優しい手付きで抱く。
「小さいな、壊してしまいそうだ」
「ふふ、大丈夫ですよ。それにこの子は勇者なんでしょう? それなら強い子どもです」
「ああ、そうだ。勇者は強くなくては困る」
ハウストはそう言うと私に笑いかけてくれる。
「ありがとう。この勇者はお前のお陰で誕生できたんだ」
「私は何もしていません。ずっと持ち歩いていただけです」
「それでもだ。誰でも良かったわけじゃない、きっとお前でなければ勇者は誕生しなかっただろう」
「そうなんですか?」
「勇者は人間だが普通の人間じゃないからな」
「そういうものですか」
よく分からないけれど、ハウストに喜んでもらえて良かった。私だからと特別に思ってもらえるのは嬉しいことです。
「勇者の名前は決まっているのか?」
「いいえ、さっき生まれたばかりなので」
「そうか、ではイスラと名付けようと思う。構わないか?」
「素敵な名前ですね。この子も喜びます」
イスラと名付けられた赤ん坊を見つめる。
どこにでもいる普通の赤ん坊に見えますが、イスラは本当に勇者なんですね。
ハウストはとても大切そうに赤ん坊を抱いている。さっき襲ってきた精霊族の男もそうでした。
「ハウスト、教えてほしいのですが勇者とはなんですか? さっきジェノキスと名乗る精霊族の男に卵を奪われそうになったんです」
「ジェノキスだと?」
「知ってるんですか?」
「奴は精霊族最強といわれている精霊王直属の護衛長だ。よくイスラを守ってくれた、ありがとう」
「か、感謝なんていりませんっ。当然のことですよ!」
改めて感謝されて照れてしまう。
思わず熱くなる頬を両手で押さえましたが、そんな私とは反対にハウストからは深刻な雰囲気が漂う。
「精霊族に勇者誕生を知られたか、厄介だな」
ハウストはそう言うとイスラを抱いたまま小屋の出口へ向かう。
私は慌てて呼び止めました。
「ハ、ハウスト? どこへ行くんですか!?」
「勇者を安全な場所に連れていく。お前には世話になったな」
「えっ、ええ!?」
いきなり過ぎて訳が分からない。
とてもあっさり告げられたけど、それは別れの挨拶。
思わずハウストの腕を掴んで引き止めました。
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