第七章・バカですね。こういう時は「愛している」と言って、私に口付けるものですよ?

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「イスラ!!」  その姿に安堵するも、すぐに異変に気付く。  イスラは悲壮と怒りを混ぜたような顔をしていたのです。 「ブレイラ、なにしてるんだ!」 「イスラ、どうしました……?」 「ブレイラ!」  イスラは転がるように駆け寄ってくると、「どけ!」と私とハウストの間に割りこみました。  私を背中に庇うようにして立ち、ハウストを睨み上げます。 「ブレイラはハウストのところにはかえらない! オレとずっといっしょにいるっていった!!」 「イ、イスラ……」 「ひとりでかえれ! ブレイラはかえらない!」  イスラがハウストに向かって声を荒げました。  怒りで興奮するイスラをなんとか落ち着かせたい。 「落ち着いてください。話を聞いてくださいっ」 「ぜったいダメだ! ブレイラはかえっちゃダメだ!」 「イスラ、お願いですからっ」 「いやだ! ハウストはひどいやつなんだ! ダメなやつなんだ!」 「イスラ!!」  咎めるように強い声を出すと、イスラの肩がビクッと跳ねました。  しまったっ! はっとしましたがもう遅い。  イスラは一瞬泣きそうな顔をしたかと思うと、「えいっ!」と興奮した勢いで私を押しました。 「わあっ!」  突然のことに驚き、情けなくも尻餅をついてしまう。  するとイスラはさらに泣きそうな顔になりましたが、私をキッと睨みつけます。 「ブレイラのバカ!!」  叫ぶように言うとイスラは脱兎のごとく駆けだして行きました。 「待ちなさい、イスラ!!」  慌てて後を追おうとしますがイスラはあっという間に見えなくなる。  途方に暮れてしまう私に、今まで黙っていたジェノキスが呆れたように口を開きます。 「あーあ、でもこうなるよな。当然だ」 「……うるさいですよ」 「イスラはまだ子どもだぜ? そりゃ魔王と仲良くしてるあんたを見たらショック受けるだろうな。……俺だってちょっとショック受けてるし」 「ジェノキス」  軽くジェノキスを睨んでみるも、そこに力はありません。これは自分の迂闊さが招いた事態です。  ジェノキスの言う通りでした。どんな時も私とずっと一緒にいてくれたのはイスラです。イスラが私を魔界から連れ出してくれました。ハウストといると悲しい顔をしているからと、私の為に。  だからこそ、きっとイスラの目には酷い裏切り行為に映ったことでしょう。 「……私が迂闊でした。イスラが怒るのも当然です」 「そんな顔するな。お前の所為だけじゃない」 「ありがとうございます……」  慰めてくれるハウストに力無く微笑みかけます。  ハウストはそう言ってくれるけれど、イスラを傷付けたことに間違いはありません。  イスラは私が悲しいと一緒に悲しんでくれました。だからイスラが悲しいと私も悲しくなるのです。
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