第八章・私の全部をあなたにあげます。きっとこの為に私はあなたの親になったのでしょう。

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「しっかりしてくださいイスラ! イスラ!! 目を覚ましてくださいっ!!」  飛びだす声は悲鳴に近い。  気がおかしくなりそう。どんなに声をかけても揺すってもイスラの瞳は硬く閉ざされているのです。  冷静さを失いそうになる中、イスラの胸に耳を当てました。  呼吸はあります。心臓も動いている。 「イスラっ……」  良かった。生きています。  イスラの小さな体をぎゅっと抱きしめます。  そして気持ちを落ち着け、前を睨み据えました。 「そこにいるのは誰ですかっ。出てきなさい!」  強く言い放つと、暗闇からコツコツと足音が聞こえてきました。  小さな人影が姿を現わし、息を飲む。 「あなた、さっきのっ……」  そこにいたのは先ほど出会った銀髪の少年でした。  少年は恭しくお辞儀します。 「ようこそ、勇者の母君よ。母君におかれましてはご機嫌麗しく」 「あなたはいったい何者ですかっ!?」  ごくりと息を飲む。  少年の存在に辺りは息苦しいほどの緊張感に包まれます。  明らかに普通の少年ではありません。  少年から放たれる威圧感に飲み込まれてしまいそう。 「僕の名前はフェルベオ。精霊王だ」 「あなたが……精霊王……っ」 「そうだよ。――――この体はね」 「え?」  子どもの高い声が突如低い男の声に変化します。  少年はニタリと歪んだ笑みを浮かべ、爬虫類のような目付きでじろりと私を見たのです。そして。 「貴様が愚息の愛した人間か。まさかそれが勇者の母君とはな」 「まさか、あなたはっ……」  嫌な予感に全身から血の気が引いていく。  禍々しささえ感じる気配に体がカタカタと震えだす。  そんな私に少年は薄い笑みを浮かべて口を開きます。 「初めまして、私こそが先代魔王。ハウストの父親だ」  嫌な予感の的中に愕然としました。  この男は十年前、神という存在に最も近づき、三界を破滅に追い込んだ存在なのです。 「どうしてここにっ、ハウストに封印されている筈じゃっ」 「ああ、忌々しいことに私は息子の手によって致命傷を負い、封印された。だが、それももう終わりだ」  先代魔王はそう言うと、精霊王フェルベオの姿のままでゆっくりと近づいてきます。  早く逃げなければと思うのに金縛りに遭ったかのように体が動きません。  絶対的な力と恐怖に体が竦み、せめてとイスラを抱き締めました。 「こ、こないでください! こっちへこないでください!!」 「つれない事を言う。私はハウストの父親だぞ? もう少し愛想を振り撒いたらどうだ」 「ふざけないでください! 誰があなたなんかにっ!」 「そんなことを言っていられるのも今のうちだ」  そう言ったかと思うと足元の魔法陣から更なる光が放たれました。  眩しいほどの強い光の中、腕の中のイスラに異変が起きる。魔法陣に呼応するようにイスラが苦しみ始めたのです。
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