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「私がなぜお前をここで生かしていると思う?」
「え……」
「神になる条件は全て整っている。それは精霊王の力、魔王の力、勇者の力。そう、三界の王の力のことだ。先代精霊王を殺して得た精霊王の力、魔王は私自身、そして十年前は失敗したがようやく手に入れた勇者の力。これで三つ、神の条件である三界の王の力は手に入れた。……だがね、残念なことが一つあったんだよ」
先代魔王は大袈裟に嘆きながらも、その目は爛々として私を射竦める。
「それは、この私をしても神自身にはなれぬという事。魔族や精霊族はその強い力ゆえに神の力を受けいれる器にはなれないんだよ。そう、無力な人間でないとね」
「それは、いったいどういう……」
頭の中で警鐘が煩いほど鳴っています。
嫌な予感がどんどん膨れ上がって混乱と恐怖に心臓がどくどく脈打つ。
「喜びたまえ、人間よっ。人間の無力さには意味があったのだ! 神の器になるという意味が!!」
「っ、んんッ!」
突然の口付けに驚愕しました。
先代魔王は私に口付けたまま愉しげに目を細めます。
「っ、んぅっ」
こくりっ。熱い塊のようなものを口移しで飲み込まされる。
吐きだそうとするも口を塞がれ、熱い塊が喉を通り、お腹の奥でじわりと溶け込んでしまう。
瞬間、火が着いたように体が熱くなりました。
「あっ、は……、あつ……っ、うぅ」
全身から力が抜けてイスラを抱き締めることもままならなくなる。
私の腕からイスラが取り上げられ、「かえして」と追いかけた腕が掴まれました。
先代魔王は取り上げたイスラを放り捨て、嘲笑を浮かべます。
「どうだ神の力は? その力を受け入れ、器として私のものになってもらう。ハハハッ、いい顔をしてくれるじゃないか。勇者の母君は好きモノと見える。そんなに遊んでほしいのか」
「は、はなし、なさい……っ。あっ」
強く引き寄せられ、先代魔王の腕の中に落ちてしまう。
抵抗したいのに体内で熱が暴れ回っていて力が入りません。
指先まで震えるほどの熱に意識が朦朧としてしまう。
「我が息子ハウストをこの体で陥落させたのか?」
「やめ、……あっちへ、いって、くだ……さい」
遠ざけようと突っぱねた手が邪魔そうに払われ、力無く空回りします。
体は脱力して動かすことすらままならず、先代魔王のするがままに触れられる。
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