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「おのれっ、先代魔王め! この僕を愚弄したことを後悔させてくれる!! 絶対許さんぞ!!!!」
突如、今まで的確な指揮をしていた精霊王フェルベオが声を荒げました。先代魔王の力が増大したという報告に激昂したようです。
広間から漏れでる先代魔王の気配を感じてフェルベオが怒りに震えている。そう、先代魔王に乗っ取られていた精霊王フェルベオの怒りは凄まじいものがありました。彼は十年前に先代精霊王である祖母を失い、その怒りに付け込まれて十年以上も意識の一部を常に乗っ取られた状態だったのです。
それによってフェルベオはハウストを憎むように仕向けられたのでしょう。精霊界と魔界の間を断絶する為だけに。
「忌々しい魔王め!!!!」
外見は美少女と見紛う美少年ながらどうやら性格は激情型のようです。
ジェノキスをはじめとした精霊族の高官が必死に宥めていますが、傷付いた彼の矜持は先代魔王を倒して先代精霊王の仇を取らねば収まらないのでしょう。
そんなフェルベオにフェリクトールがため息をつきます。
「君が怒り狂ったところでどうにもならないだろう。先代魔王の増大した魔力を封じる手立てでも考えたらどうかね」
「魔界の宰相如きが舐めた口をっ。貴様こそ魔界一の知恵者だと聞いていたが噂ほどではないようだ」
暴言にフェリクトールがスッと目を細め、ジェノキスが慌てて仲裁に入ります。
「ごめんごめんっ、うちの王様ずっと乗っ取られてたから機嫌最悪なんだよ。これでも傷付いてるんだ」
「ジェノキスっ、貴様はどちらの味方だ!」
「もちろん精霊王ですよ。でも今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょう」
宥めるジェノキスにフェルベオは苛々と舌打ちします。
ですが少しして深呼吸し、気持ちを落ち着けると凛とした面差しで顔を上げました。
「……取り乱してすまなかった。以後気を付けよう」
「分かってくれました?」
「フンッ、どこに怒りをぶつけるべきか見失う僕ではない。先代精霊王の死は現魔王の所為でないことくらい分かっている。そこが理解できぬほど幼くもなければ愚かでもないぞ。僕は精霊王だ」
「さすが我らが王です」
ジェノキスは満足気に笑むと恭しく臣下の礼を取りました。
フェルベオはそれに厳かに頷くと、私に向かって真っ直ぐ歩いてきます。
そして私の前で紳士のように跪く。
「お恥ずかしいところをお見せしました。勇者の母君よ」
「わ、私にそんなこと、やめてくださいっ」
予想外のことに慌ててフェルベオを立たせようとします。
しかしフェルベオに制され、「僕を礼儀の知らない無作法者にする気ですか」と逆に怒られました。
「今、母君の体内で融合が進んでいる神の力の一部は僕のおばば様のものです。分かりますか?」
「先代精霊王の……」
私は目を閉じ、体内にある神の力を感じる。
神の力とは、勇者の力、魔族の力、精霊族の力が一つに同化したものです。
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