蒼い夜空に舞え

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「お隣さんて、仕事何やってる方だっけ」  ある日妻にそう聞いた。お隣の若い奥さんのことを詮索しているのだと分からないように自然な感じで。 「旦那さんは普通に会社員やってるし、奥さんは今は専業主婦。どうしたの」 「いや最近奥さんとよく挨拶するもんでさ。意外に明るそうな人だったから」 「ふうん。気になったり?」 「そんなんじゃないよ」  その日はそんな感じで会話は終わった。  私はレストラン勤務という仕事柄、出勤時間がまちまちで帰りも毎日夜中という生活である。土日祝日は基本出勤だ。そのため近所の方とはほとんど会う機会がなく、どんな人たちなのか私はよく知らない。したがって隣も含めた町内のお付き合いは、性格が社交的な妻に任せっきりだった。  特にお隣の倉田家のことはほとんど知らない。関心がないと言っても良い。主人は気難しい学者のような風貌で何となく感じ悪く思っていたし、昨年頃だったか、深夜に帰宅した私が駐車にてこずって空ぶかしをしてしまった際に翌日主人が苦情を言ってきたと妻に聞いた。それ以来私は倉田家のことを敬遠してきたのだ。 「なんかさ、家全体が暗くてじめっとしてるんだよな」  と私が愚痴を言うと、町内で役員もしている妻からは「そういうことは言わないの」とたしなめられた。  倉田さん家族には小学生の息子さんがひとりいる。病気がちのため家族で出かけたりもしないのだと妻は言っていた。  先月末も夏祭りが盛大にあった。私たちが住むN市は全国的に花火大会が有名で、近所の家々は花火が始まろうかという夕暮れの時間になると、家族総出でぞろぞろ歩いて土手まで出かける。  花火の日は毎年店は仕事にならないので勤務は休みになる。だからウチも例に漏れず妻とふたりでレジャーシートを抱えて土手の花火会場に出掛ける。しかし倉田家は例年ずっと明かりが灯って家に籠っている。ほとんど出歩かないのだ。
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