蒼い夜空に舞え

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 倉田さんの奥さんとは、何日かささやかな挨拶を交わす日が続いた。彼女はやはり毎日踊ったり走り回ったりしていて、私と目が合うと照れて会釈をしてどこかへ行ってしまう。一体何をしているのだろうか、と関心を持ちながらも深く詮索することなく短い挨拶をするにとどめた。  そうして8月も半ばになり、世間は長いお盆休みに入った。私の勤めるレストランはファミリー向けの店なので、お盆期間は書き入れ時である。出勤時間も早まって忙しくなり、お盆期間中は倉田さんの奥さんと会うことはなかった。私自身も仕事に忙殺されており、そんなことをすっかり忘れてもいた。  ようやくお盆の忙しい期間を終え、その日は久しぶりに早く仕事を上がった。家に帰ってみると倉田家の前が騒がしい。  驚いたことに赤色灯を方々に反射させた救急車が1台止まっていて、近所の住民が何人か心配そうに集まっている。  家では妻が動揺したような顔でいた。私を見るなり「ごめん、すぐに車出してくれる?」と急いて言った。その時外で救急車が発車したようだった。 「何があったんだ」 「倉田さんの息子さん、アイト君の様態が急変したの」  妻の顔が青い。私は豆鉄砲を食らったように戸惑った。何の話をしているのかすぐに理解できずに聞き返す。息子さんがアイトという名前なのも今初めて知った。 「あとで説明する」  妻は慌てていた。そして玄関クローゼットを全開にした。なぜかそこに、色とりどりのビニール傘が十数本も入っている。いつの間にこんなものが? 「とにかくごめん、これ全部持って行くから」
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