蒼い夜空に舞え

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 玄関を出ると、お隣の庭先で倉田さんの奥さんが体操をしている。奥さんは照れくさそうに上げていた両手をおろしてお互い目が合う。 「あ、ごめんください」  お隣とは普段あまり顔を合わさない。私は小さく挨拶する。倉田さんは口元を手で覆って目を細め、かわいらしく腰を引いて頭を下げた。意外に明るそうな方だった。  翌日も、玄関を出るとやはり倉田さんがいて目が合った。リビングに面した芝生の庭で今日は傘を持って踊っている。会釈をする。倉田さんはビニール傘を閉じ、いたずらが見つかった小さい女の子みたいに微笑んだ。  それから毎日出勤のたびに、庭で「何か」をしている彼女と目が合う。踊ったり、ビニール傘を回したり、先日はラジカセで音楽を流してぐるぐると走り回っていた。そしていつも私に気づかれると、さっと身を固くして赤面した顔を向けるのだ。  ちょっとした秘密を見たようで気恥ずかしさがあったが、彼女の照れた表情は不思議と爽やかでくすぐったい。  それにしても、一体毎朝何をしているのだろうか?
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