38人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
あの父親が言ったことは、万人にとって正論ではないだろう。
あるいは、反発ばかりを受ける言葉の数々だったかも知れない。
だが俺にとっては、儕と呼べるほど同じ志を持った男だった。
彼は努力と生まれ持った商才で財を成し、俺は偽りの愛を演じることで財を成す。
だから俺は演技として誠意を見せ、その演技を金に換えた。誠は買える。彼の正論は俺にとっても正論だ。
理美のような初猫を探すことは造作もない。それに美しい愛を与え、金とするのが俺の生業だ。現在、そんな初猫を四匹ほど飼っている。金額の多寡にかかわらず、演じただけのギャラは貰えるだろう。
俺はいつでも、どんな状況でも、その女が理想とする男になれる。
この才能は天が授けてくれたものだ。
そしてこれは誰にも奪われない。
泣く泣く別れを認めた。精一杯の気持ちを伝えた。人が聞けば哀れと思われる俺が罰せられる理由はない。
七化けどころか百化け千化けして見せる俺こそ、狐の王に相応しい。
素晴らしき哉、我が演戯!
だが、俺はまだ、本当の自分を知らない──。
(了)
最初のコメントを投稿しよう!