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彼は背を逸らせたまま腕組みをして、話を始めた。声の端々にこちらへの軽侮が混ざっているが、さすがに偉ぶるだけあって、内容には説得力があった。
「私も、生まれ持っての格は低かった。貧乏な家に生まれてね、漫画一つも買ってもらえなかった。流行りの物は友人に少し借りて知るしかなかった。金さえあればと悔しい思いをし続けたのだ。金はすべてを屈服させる。だから私はそれのみに拘り、財を成して自らの格を上げることに執念した。決して誰も真似できぬ努力をしたから今があるのだ」
そう言って、目線だけを俺の名刺に落とした。
「君がせめて部長職にあったなら、少しは話し合いもできたろうが、営業の副主任程度では話にならん。私が君の年齢のとき、すでに年商は億を超えていた。若い者は愛だの恋だのを優先するが、他人は肩書と年収で価値を測る。愛や恋だけで一流の夫婦と見られる者はごく一部の美談があった場合だけだ。人間は情よりも利で動く。利があれば人は従い、慈善活動をする際にも大きなことができる。そこに徳が生まれ、徳は人間の格を上げるのだ。私は無宗教だが、宗教に通ずるこの考え方が間違っているとは思わない」
確かに、無名で資金力のない人間が大々的に人を救うことはできないかも知れない。けれども俺には、これも真理と言うべき言葉がある。
「まごころや誠意は、必ず人に伝わると思います。小さな積み重ねが実を結ぶことはたくさんありますし、根底に純粋な想いがあれば、共鳴は起こると信じています」
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