サクラノサクコロ

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通学路を歩いていると。 後ろから声がかかる。 「しんちゃんおはよー」 僕の名前は。 佐竹 慎一(さたけ しんいち) だからしんちゃんなのだ。 相手は相沢 桜(あいざわ さくら) 同い年の幼馴染だ。 桜とのはじめての出会いは。 3歳の時。 近所の公園で膝を擦りむき。 転んでスンスン泣いていた僕を撫でてくれた。 優しく家に呼んで手当てしてくれた。 そこからの付き合いだ。 それから公園で遊んだり。 ずっと一緒に育った。 幼稚園も一緒。 小学も一緒。 中学も一緒。 気がつけば高校まで一緒だった。 桜は、小さい頃から。 自分をお姉さんだと思っている。 同い年なのに。 「ところでしんちゃん、中間テストはどうだった?」 ほらはじまった。 まるで母ちゃんである。 「大丈夫、赤点はなかったよ」 「よかった、わたしはね、数学危なかったかなー」 なんて笑う桜の横顔を見ながら。 普通の母ちゃんとは違うなとは思ってしまう。 母ちゃんと一緒に中間テストなんてありえないもんな。 ふと。 普段押し殺している感情が表に出てくる。 桜とデートしたい。 桜なら断らずに。 いいよーって軽く言ってくれそうな気がする。 桜を母ちゃんみたいだ。 なんて言いながらも。 やはり同い年の女の子として見ているところもあり。 それは否定できない。 しかし、安易に告白できない理由がある。 桜のクセに由来する。 僕は日々そのプレッシャーと闘っている。 「ところでしんちゃん? 今はフリーなの?」 ほらはじまった。 「僕はいつでもフリーだよ」 「あのね、山峰学園って知ってる?」 「あれだよね、隣街の女子が多い高校だよね」 「そこの先輩にしんちゃんの写真見せたら好評で」 「えー、またなの?」 「とっても美人な先輩で、今は彼氏いないの」 「やだよー、それで前も大変なことなったじゃん」 「なったの?」 「なったよ! 車で元カレがきて、死ぬかと思ったよ!」 「あらあら、大変だったね、あまり先輩の悪口言えないんだけど、その先輩男性経験がなくって」 「そういう問題じゃ」 「でもその先輩、えらいお気に入りで、お手紙でもって?」 「ウソでしょ? メールあるじゃん?」 「厳しいおうちでね、スマホ持てないらしいの」 「昭和かよ!」 「まあまあ、そんなプリプリしないで、わたしを助けると思って」 「会うだけだからね」 「早くしんちゃんの彼女みたいなー」 このパターンである。 桜はまるで。 お見合い写真を見せて回っている。 さながらマジで僕の母ちゃんである。 「もお、彼女なんか見てどうするのさ?」 「言いたいじゃない! わたしが育てました!」 「僕はキュウリか、トマトですか?」 「え? なんで?」 「スーパーでそんなの見るじゃん野菜に貼ってあるじゃない」 「はははは、あの、農家のお父さんお母さんが貼ってあるやつね」 桜はツボなのか。 笑っていた。 本当に冗談じゃない。 桜は楽しんでるけど。 いつも桜がつれてくる女の子は。 どこかずれている。 最初に連れてきたのは。 すげーお嬢様で。 黒服のお兄さんがそばにいて。 お話しできなかったし。 次は恋多き乙女で。 3回目のデートくらいは付き合ったんだけど。 元カレが車で登場。 修羅場だった。 よりを戻したい彼氏と。 絶対に戻りたくない。 その紹介された女の子。 何故か、僕の彼女に手を出すな! みたいなこと言わされるし。 しょげて元カレが帰るし。 その元カレの騒動が収まったら。 その女の子は簡単に他に行っちゃうし。 本当散々。 元カレから引き離すための僕は踏み台ですか? みたいにイライラしたなー。 なーんて振り返っても。 ロクな思い出がない。 高校生になってから。 桜はいろんな女の子をつれてくる。 でも、桜しか好きじゃない。 とも言いにくい。 でも桜は僕が彼女を連れてくるのをなんとしてでも見たい。 なんか物凄く。 いやな感じなんだけど。 今までの桜からの恩を考えると。 ムゲにもできないから。 頭を抱えながら過ごした。  それから1週間もしないで。 山峰学園の女の子が来た。 長い髪を背中で結び。 まさに見るからに大和撫子。 今回は黒服がいないのが高ポイントである。 「佐竹慎一さんですか? 笹原蔦子(ささはらつたこ)と申します」 凛とした綺麗な姿勢から。 大きく頭を下げ。 お辞儀をする。 もう見るからに。 もう住む世界の違うお嬢様である。 桜はお嬢様のお悩み相談でもしてるのか? ってレベルである。 「蔦子さん、はじめまして、慎一です」 そう挨拶すると。 ジッと蔦子さんは僕を観察している。 余計なことを言わず。 しばらく見つめ合う。 「慎一さん、喉が渇きませんか?」 「いや、でもお金はないですよ」 「それは心配しないでください、デートだと伝えたら、お小遣いはもらってますから」 「じゃあ、まあ、どこかに行きますか」 「この近くにコーヒーが美味しい喫茶店があるんですよ」 「では、そちらへ」 そう言って二人で歩きはじめた。 手は繋がず。 ゆっくりと歩く蔦子さんについて行った。 日差しが強いと。 日傘を差しながら歩く。 なにか、とても上品で。 その仕草を見ながら。 ビビりならも。 喫茶店に一緒に行った。 喫茶店に着くと。 意外な一言を言われた。 学校の仲間は。 蔦子さんに彼氏を作ろうと。 画策しており。 その候補として僕があがったのだと。 いう話。 あなたはあたしをどう思っているの? といきなり問い詰められ。 気まずかった。 仕方ないので。 桜がやってきたことや。 桜との関係。 実は蔦子さんが気に入ったから僕が呼ばれてる。 みたいな話をした時。 蔦子さんはクスクスと笑いはじめた。 状況が掴めず。 ポカンと眺める。 よほどおかしいのか、蔦子さんは涙を流しながら笑っている。 「ごめんなさいね、笑ってしまって、でも話はわかりました、慎一さんは桜のエゴに振り回されているんですね」 「エゴ?」 「そうそう、桜は証明したいのよ、自分が可愛がったあなたが、いい女と釣り合う男だと、そのエゴなんでしょうね?」 「は、はあ」 「面白いじゃない、二人で桜の所に行きましょう」 「え? と、言いますと」 状況が急に進み。 かなりテンパる。 え? 蔦子さんを彼女とか言って連れて行くってことかな? とか、すごくドキドキしてしまう。 「慎一さんは、手を繋いで、あたしのとなりに立っていればいい、あとは、話はつけましょう」 「どうするんです?」 話が急展開で。 ドギマギする。 でもお構いなしで蔦子さんは話を進めた。 聞きながらポカンとしてしまう。 でもわかったのは。 桜が僕の彼女探しで。 いろんな高校の女の子に声をかけていること。 そして蔦子さんには確信があるらしい。 僕と仲睦まじく。 桜の目の前に実際に行けば。 桜は自分が抑えられなくなる。 そこの意味はいまいちわからなかったが。 喫茶店でコーヒーを飲みながら。 作戦が決まって行く。 三日後。 僕と蔦子さんは桜の前に行く。 僕は桜に彼女ですと紹介する。 桜の出かたを見て。 蔦子さんは、判断すると言っていた。 もう今からドキドキしかなかった。  三日後。 蔦子さんと手を繋ぎ。 桜の前にいた。 蔦子さんが切り出す。 「今回は素敵な彼を紹介してもらいまして」 そうお辞儀すると。 桜は喜ぶどころか。 かなり複雑な表情をした。 その場の空気の悪さに。 一瞬息が詰まる。 「桜さん、慎一さんは素敵な殿方ですね、優しい人」 その言葉に桜はしばらく返さなかった。 しばらくの沈黙の後。 桜は言葉を捻り出す。 「慎一、彼女さん?」 「う、うん」 普段とは違うその圧力に返事が上ずる。 桜が一瞬目を見開いたのは。 見逃さなかった。 桜の表情はかなり曇っていたが。 蔦子さんは。 ゆっくりと言葉を続ける。 「貴女が望んだことですよ、あたし、慎一さんとお付き合いするんです」 この前まで冗談言っていた桜とはもう違っていた。 僕にはその意図はわからないけど。 蔦子さんは全てを見抜いているような目をしている。 その言葉をかける目に迷いはなかった。 僕は気まずくて逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。 でも蔦子さんは返答のない桜にさらに詰めていく。 「祝福はしてくださらないの?」 桜が言葉を失う。 しばらくの沈黙の後。 「蔦子さん、後でお話があります」 それだけ言い残して。 桜は去ってしまう。 蔦子さんは勝ち誇った表情をした。 僕はわけがわからなくて立ち尽くした。 蔦子さんは手を離すと。 「あたしが思った通りでした」 わけが分からず。 蔦子さんを見つめる。 蔦子さんは表情が柔らかくなった。 「もういいんです、貴方の出番は終わり、あとは桜に決着つけさせます、後日お手紙しますね」 「は、はい」 そういいながら。 手紙を送る先だけ教えて。 解散した。 蔦子さんは勝ち誇った顔をしていたが。 僕にはその意味はよく分からなかった。  後日、蔦子さんから手紙が届いた。 内容はこうだった。 桜のことは問い詰めてみれば。 かなりありふれた結果でした。 その事をきっちりと、慎一さんに伝えなさいと。 お灸を据えました。 という短い内容。 お返事を書いたけど。 女どうしの秘密ですから。 詳細は書けません。 と返ってくるばかり。 あの場にいたけれど、なんのことか分からなかった僕は。 毎朝変わらず。 桜と通学する毎日。 あれから少し変わったのは。 あまり目を合わせなくなった事と。 「彼女みたいな」と言わなくなった事。 桜は来週の日曜ヒマ? と聞くけど。 ヒマだよと答えると。 やっぱなんでもないと濁す。 もしかして、僕のことが実は好きで。 蔦子さんを連れて行って。 ショックで。 とか妄想するけど。 そこは蔦子さんとの約束もあるから問い詰められない。 僕も前から桜を意識していたから。 いやな話ではないけれど。 僕からは言えない。 桜からも、まだ言ってもらえない。 でも、せかさない。 そう決めている。 好きなのはお互いわかっている。 でも言えない。 桜も言わない。 そんな微妙な距離を保ちながら歩いている。 学年が上がる。 桜の咲く頃。 手を繋いで歩ける事を願いながら。
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