《176》

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 城が最初に見た時よりも大きく見えた。 「つくづく厄介だな」 立花山城を見据えて忠勝は言った。心の底から漏れた言葉だった。少し小高い場所に移動する。景色が広くなった。立花山、宝満山、岩屋の3城の間々に砦が築かれていた。二月前、あの電光石火の二城奪還劇の2日後に築かれたのだ。宗茂は各砦を日々回り続けている。今、筑前のどの城を攻めても宗茂が争闘の中心に飛び出してくる仕組みが出来上がっていた。  島津忠長率いる筑前攻略部隊は肥後八代まで陣を下げざるおえない状況になっていた。岩屋、宝満山、両城を奪い、一度は肥後から豊後までの島津軍進攻直路は開けていたが、一夜にして閉ざされた。立花宗茂という桁違いの傑物ただ一人の力によって。 「二つある砦のどちらかを陥としてやりましょう」 傍ら、馬乗の梶原忠が鼻息荒く言った。包帯が巻かれた左腕には副え木が当てられている。忠は二月前の戦いで骨折したのだ。都筑秀綱は右足に深傷を負い、現在療養中だ。黒疾風の中でもかなりの遣い手である二人を童を相手にするようにいなしていた、宗茂の姿は忠勝の脳裏から離れなかった。これまで数多強者を見てきた。が、立花宗茂を見た今、どれも平凡な将に思えてくる。忠勝自身も含めてだ。 「兄貴殿、砦攻めを」 「黒疾風は皆、騎馬隊だ。砦や城を攻めるには向かんさ」 「砦の傍まで行き、立花宗茂を散々に罵倒してやりましょう。それで奴を引きずり出し、野戦に持ち込むのです」 「絶対に乗ってこないだろうな」 忠勝は言った。 「あれはそういう領域の男ではない。いくさ人としての心意気は持っているが、それに振り回される事はない。冷静に今の最善を考え、行動できる男だ。あれでまだ20歳なのだというからな、末恐ろしい」
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