空の箱

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その後も、何とか思い出せないかと写真を見てみたりして試してみたけれど、 やはりどう頑張ってもそれ以上は当時の事は思い出せなかった。 それからしばらくしてそのことについて考えてみた時に気が付いた事があった。 それはこの現象自体にはやはり違和感があったものの、特別に今の普段の生活で困るようなことは起きていないようだということだった。 あえて思い出す必要がないことなのかもしれないし、気にはなるけれど、こんなことを誰かに話すのも不思議がられるだろし、なんだか怖い気もして、このことは自分の胸に閉まっておくことにした。 それから数年後、ふと当時のことをまた思い出そうとしてみたことがあった。 時間が経ったことでなにか思い出せるかもしれないと思ったからだ。 すると以前は思い出せなかったことが浮かんできた。 それは当時住んでいた部屋の白い壁と電話でだれかと話している私という画像の様なイメージだった。 あれ?こんなことあったかな。 この時の私は何を聞いていたのか、何を話したんだろうか? 電話をしているのだから何か会話があったはずだけど、その時の電話のやり取りや実感を伴う様な感情的な感覚は全く思い出せなかった。 やっぱり色のないグレーの写真みたいで動きもなければ流れもない。 瞬間を切り取ったように写された写真を一枚ずつバラバラに見ているような感じだった。 それでも以前よりは当時の記憶の断片が思い出されてきたので、 少しほっとした気持ちになった。 あやふやになっている記憶がたとえ良いものでなかったとしても、 あるはずの記憶が抜け落ちている感じは やはり奇妙でどこかしら恐怖のようなものを感じていたから。
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