拾った大金

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 男は途方に暮れていた。  道端に落ちていたバッグ。  中を開けてみると、大量の札束が入っていたのだ。  パッと見ただけでも、かるく数千万円はあるだろう。  辺りは人気のない裏通り。  とんでもないものを拾ってしまった。  男は頭を抱えた。  これは警察に届けるべきか。  善良な市民であれば、拾った大金は警察に届けるのが当たり前であり義務であろう。  そして男は善良な市民だった。  すぐに警察に届けようと思ってハタと足を止める。  もしも持ち主が現れたとしたら、このお金はどうなるのだろう。  一部は自分の手元に残るだろうが、大部分は落とし主のふところに戻ることとなる。  これほどの大金だ。  みすみす手放すのは惜しい。 (しばらく様子をみるか)  男はそのバッグを家に持ち帰ると金庫の中にしまった。  ネコババをしたわけではない。  少し預かるだけだ。  大金を落としたと世間が騒ぎ始めたら、自分が拾い主だと名乗り出ればいい。  善良でない市民が拾ったらそれこそ湯水のごとく使われるのは目に見えている。  かえって自分に拾われてよかったではないか。  男は自分にそう言い聞かせた。
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